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55.ボルテクス


「引越しをしたい」と俺は宿で皆に言った。


「別にここでも良いと思うなー」とハルニレはベッドで横になってあられも無い格好のまま言った。


「私も特に不満はない」とカンナは短剣を研ぎながら言った。


「カンナは俺との同室は嫌がっていたじゃないか」俺は入室当初の屈辱を思い出して言った。


「慣れた」とカンナは事も無げに言った。


 えええ。


「せっかく大金が手に入ったのに皆はそれで良いのか?」俺は演説するように訊いた。


「私はそもそもお金持ちだからなあ」とハルニレは爪の手入れを始めだした。


「借金がなくなっただけで私は満足だよ」とカンナは短剣を翳して満足気に呟いた。「うん。綺麗」


「キキリ‥‥」と俺は味方になってくれる人を探して小狐を抱きしめた。「広い部屋に住みたいだろ?」


 キキリは中空を見上げる動作をしてから俺の顔を見て首を傾けた。

 どうでもいいらしい。


「クルクル、ミミ」俺はついに魔獣たちに助けを求めた。


 二匹は追いかけっこをして俺の言葉を無視した。


「なんか仲良くなったよね」とハルニレは二匹を眺めて言った。


「どちらかというとクルクルが食われないようにミミから逃げ回っているように見えるんだが」心なしかクルクルが焦っているように見えた。


「そういえばユカラ最近脱皮しないね」とハルニレは言い出した。


「ああ、そういえば」おそらく危機感がないと起きない生理現象と当たりをつけていた。


「ジャーン!」と言ってハルニレは何かを俺の前に翳して見せた。


「俺の皮! まだ持っていたのか!」


「ほらほら、ここ可愛いよね!」ハルニレは俺の股間の皮を指で弾いて言った。


「やめて! 弄ばないで!」どんな羞恥プレイだ。


 そんなほのぼの(?)とした休みを満喫しているとドアをノックする音がした。

 

 ハルニレはミミを呼び寄せ顔を変えた。

 それを見届けてから俺はドアを開けた。

 サヴァーがいた。


「休暇中のところなのにごめんなさい」



 珍しく髪を乱した姿でサヴァーは言った。

「緊急クエストがあってユカラたちに頼みに来たの」


「他の冒険者がいるだろう」と俺は不思議に思って訊いた。


「国からのおふれで皆ダンジョンに行ってしまったの」


 そこでサヴァーはゲヘナに訪れている国家的危機を俺たちに説明した。


「初めて知った」俺は驚いて言った。「ダンジョンの呪いか」


 俺はキキリを見た。

 キキリはダンジョンで生贄にされていた。キキリが話せないのは呪いであっても不思議ではない。


「皆ダンジョンに出払って町中の問題に対処できる人がいないの」サヴァーは珍しく慌てているように見えた。だが辛抱強く語る。


「町中?」カンナはそう言って窓から外を見た。「何かいるの?」


「おそらくもうすぐ戒厳令が出されると思う」サヴァーは眉間に皺を寄せて言った。


 俺も窓から外を見た。


 上半身が女で下半身が蛇のモンスターが往来を何匹も徘徊していた。


「レージーナか! クソッ。よりによって厄介な奴だ」俺はサヴァーの乱れた姿に合点がいった。命懸けで俺たちに助けを求めてきたのだ。


「何故か家屋には入ってこないの。だから皆家に引きこもっている。でもそれを伝える人がいないから」言葉の後半は消えた。そしてサヴァーは倒れた。


「サヴァー!」俺は彼女を抱えてベッドに寝かせた。



「レージーナはかなり強力なモンスターだ。喋れはしないが人語は理解できるし魔法も使う。おそらく誰かの命令で動いている」俺は皆に説明した。「一匹なら俺たちの力でもなんとかなるが」


「一、二、三‥‥、見える範囲では五匹ね。でも何をしているんだろう?」ハルニレは言った。


「ありがとう。大分良くなったよ」サヴァーはベッドから上半身を起こして言った。「多分レージーナ自体が何かしらの魔法を使っている。ここに来るまでに逃げ回ったのもあるけど、それにしても倦怠感が凄いの」


「ダンジョンの呪い」とカンナは呟いた。


「え?」俺はカンナの真剣な眼差しに気後れしつつ言った。「レージーナと何か関係するのか?」


「ダンジョンの呪いって漠然としているでしょ? ダンジョン近くに住む人の具合が悪くなって、ダンジョンを攻略すると大丈夫って理屈が分からない。多分ボルテクス」カンナは言った。


「ボルテクス?」


「魔法の一種。生命力を吸い上げるの。昔、父とボス戦で体験した。父の機転で逃げたから無事だった。レージーナはその媒介。ダンジョンの生贄も媒介。つまり本来生贄のはずのレージーナが町中まで出張して人間の生命力を吸い上げに来ている」

 

 カンナは額から一筋汗を流した。おそらくボス戦の時を思い出しているのだろう。


「家屋に入らないのはレージーナが捕まるわけにはいかない、あるいはそこまでせずとも問題がないという事か」


 そう言ってから突然体から謎の倦怠感が湧きあがった。


「ねえ、ユカラ。眠い」とハルニレは言ってサヴァーの隣に横になった。


「私も怠い」カンナは瞼を拭って必死に眠気と闘っている。


「まずいな」

 

 おそらく町の人が騒がないのは既にボルテクスの弊害で倒れたからだ。


 その時、不思議な事が起きた。

 クルクルが部屋の中央にホバリングして「クルクル」と一声鳴いた。

 すると怠さが抜けて意識も明確になった。


「クルクル、お前」


 俺はホバリングしているクルクルを両手で包み込むように向かい入れた。

 クルクルはそのまま眠りに落ちた。


「え、何?」とハルニレはベッドから起き上がる。そして両手を上に突き出した。「元気になった!」


「私も」とカンナは手のひらの上に一瞬電気を走らせた。


 俺はクルクルをベッドの枕の上に置いてそっと寝かせた。「ありがとうな」


「この魔獣のおかげなのね」とサヴァーは横で眠るクルクルをひと撫でした。「でもまだ怠いから寝てるね」


 サヴァーは相当頑張って逃げたのだろう。

 それを確認してハルニレは顔を元に戻した。そしてミミをクルクルの隣に寝かせた。

「待っていてね」


 俺は装備を整えて皆に言った。


「もう作戦はできている。時間が勝負だ」そしてハルニレ、カンナ、キキリの顔を見渡した。「手伝ってくれるか?」


 皆はVサインを手で作った。


「行くぞ!」



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