53.決闘
決闘当日になった。
ギルドに付属する闘技場はほぼ満席だった。
客席を見渡すと夜市で会った大男とその取り巻きもいた。
「おーい」と俺は彼らに手を振った。大男達は露骨に目を逸らして顔を隠した。
「なんだアイツら。恥ずかしいのか?」
「ユカラが決闘するって知って宣伝したみたいよ? 多分ユカラに賭けているんじゃないかな」ハルニレは苦笑いして言った。
まあ俺も自分に賭けている。入場料だけでも大金になるがもう少し広い部屋を借りてベッドを別にしたい!
「一緒に寝るのが嫌なの?」とハルニレは頬を膨らませて言った。
ハルニレの柔らかいアレやアレが体にくっ付いてくるから興奮して正直寝られない、とは言えなかった。
「私もユカラに賭けた」とカンナは真剣な表情で言った。「全財産」
「え?」と俺とハルニレは同時に素っ頓狂な声を出した。
「いい、カンナ。ギャンブルっていうのは余剰資金でね」とハルニレはカンナの肩を掴んでお説教モードに突入した。
「よく逃げなかったな」とそこへ大剣使い・カマールが現れて言った。
「資金を増やす好機だ。逃すのは惜しい」と俺は言った。
「お前、それ本気で言っているのか?」大剣使い・カマールは怒りと好奇心が混ざったような表情で言った。「最悪死ぬかもしれんぞ」
「冒険者はダンジョンに入る時は常に生死と隣り合わせだ。今更だな」俺は答えつつも一応言った。「手加減はするから少なくともお前が死ぬことはない。安心しろ」
「クソが!」激昂して大剣使い・カマールは叫んだ。「死体は犬に食わせてやる!」
大剣使い・カマールが去った後にサヴァーが来た。
「何を言ったの? 凄い荒れようね」
「当たり前の冒険者の心得を教えただけだ。何で怒るんだろうな」
苦笑いしつつサヴァーは最終契約書へのサインを求めた。
「カマールはもう済んだ。‥‥ねえ、本当に大丈夫なの? 今から棄権しても良いのよ?」
「これだけの観客だ。違約金は凄い額になるな。安心してくれ。棄権するつもりはない」俺はサヴァーにVサインを出した。そして契約書にサインした。
「昔、プルガトリオに程近い町に大量のモンスターが襲来したことがあったの。ほとんどの冒険者が倒れたのにまだ子どもと呼んでいいくらいの冒険者の男の子と女の子がその全てのモンスターを撃破したわ。いわゆる『伝説の冒険者』の話ね。その後女の子が行方不明になって男の子だけで数々のダンジョンを制覇して行ったの」
サヴァーは夢見るように話していた。
「あなたにそのご加護が在らんことを」
そう言ってサヴァーは俺の頬にキスをした。
「ちょっとちょっと! うちの子に何をしているんだい!」とハルニレはおちゃらけて言った。
「あら。可愛い女の子だったからつい」と言ってサヴァーは逃げた。
「全く油断も隙もない」とハルニレは言いつつも俺の頬を両手で持った。そして唇にキスをした。「私からも加護を」
そして背後から誰かに背中を叩かれた。
「私からも、その‥‥加護を」カンナは言った。
「ああ」俺は言った。「お陰で気合いが入った」
俺は闘技城のゲートをくぐった。
周囲は手が届く範囲の高さの壁で区切られ、その上に観客席がある。
見るとハルニレとカンナは予め指定した位置に陣取っていた。治癒士・ジュークと魔術師・モーリのいる側である。
その姿を確認して俺は闘技城の中央に向かった。
既に大剣使い・カマールは大剣を手に待っていた。
観客席にいた審判が合図する。「はじめ!」
大剣使い・カマールは駆け寄って大剣を横切りにして振り回してきた。
俺はそれを後ろに下がってかわして、背後に背負った棍棒を手にした。
「棍棒だと?」大剣使いは馬鹿にしたように言った。
「水み国の職人が作った逸品だ。剣でも切れないぜ」俺はそれをクルクルと回して見せた。対人の時だけ使う武器だ。
「そうかよ!」大剣使い・カマールは連続で打ち込んできた。
俺はそれを避ける度に大剣の横を棍棒でコンと少し当てた。
「何の真似だ」
「さあね」
再び大剣使いは連続で打ち込んできた。
その瞬間、俺の体が痺れて動がなくなった。すかさずポルターガイストを発動して体ごと大剣の射程圏外へと移動した。
俺はポルターガイストを使って右手を上げた。右手を上げるのは魔術師・モーリが魔術で妨害してきた時のサインとカンナに伝えた。
観客席を見るとカンナが人知れず魔術師・モーリに向けて電撃を放ったのが分かった。
「ユカラ!」カンナは叫んだ。
途端に俺の体は動くようになった。
「だいぶ序盤で仕掛けてきたな」
俺は治癒士・ジュークとその背後に控えるハルニレのいる観客席へとダッシュした。
「どうした? 逃げるのか?」大剣使い・カマールは嘲った。
あえて治癒士・ジュークに向けて背を向けた。
背後でハルニレの「ほいっと」と言う声がした。
振り返るとハルニレが治癒士・ジュークの腕を捻り上げてもう片方の手に吹き矢を掲げて言った。「ユカラ! 現行犯で取り上げたよ! 運営さん、妨害工作です! 来てください!」
決闘の際、ギルドは憲兵を配置する。トラブル対策としての決まりだ。憲兵が来て治癒士・ジュークは連行されて行った。
「真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である、て昔誰かが言っていたらしいぜ」と俺は大剣使い・カマールに向けて言った。
「クソッ、役立たず共が」と大剣使い・カマールは小声で愚痴った。
「さて、やっと勝負が出来るな」俺は棍棒を構えた。
「実力でも俺の方が強いんだよ!」と大剣使い・カマールは乱れ打ちしてきた。
その全ての太刀筋を見切って俺は大剣の横から棍棒をコツコツと当てていった。
「なんで当たらなねえんだよ!」大剣使い・カマールは叫んでから構えを変えた。大剣を真上に掲げて技名を唱えた。「奥義、ジェノサイド(一騎当千)!」
大剣使い・カマールの必殺技だ。背後を確認すると入場口で誰もいない。これなら避けても被害者は出ないと確認した。
大剣が振り下ろされるとその軌道上を衝撃波が伝わり地面が割れた。闘技場の入場口までその地割れは続いた。
「クソが! だから死んでも知らねえって言ったんだ!」大剣使い・カマールは言った。
「心配ありがとうな」既に大剣使い・カマールの背後に移動していた俺は言った。そして地面にめり込んだ大剣の横を棍棒で強めに叩いた。
大剣は木っ端微塵に砕かれ、体型使い・カマールは驚愕の表情で俺を見た。
大剣使い・カマールがこの大剣にどれほど信頼を置きそして大切にしてきたかを俺は知っている。
だからこそ砕いた。
本当は大剣使い・カマール自体を倒すのは開始直後でもできた。
「うわあああああああああああああああ!」大剣使い・カマールは大剣の柄を放し子供のように殴りかかってきた。
俺はそれを紙一重で避けてジャンプしながら膝を相手の顎に当てた。
大剣使い・カマールはうつ伏せで倒れて失神した。
「勝者・ユカラ!」と客席から審判の声が聞こえた。
世紀の番狂わせに闘技場に物が飛び交った。再び憲兵の出番となった。
「やれやれ」と俺は一息つくと柔らかい何かに頭が包まれた。
「ユカラ最高!」ハルニレは俺を抱きしめて言った。
反対側から控えめに柔らかい何かが俺を包んできた。
「格好良かったよ!」とカンナもまた俺を抱きしめて言った。「‥‥ユカラ様の次に」
キキリとクルクルでどちらが俺の頭に止まるかで喧嘩を始めた。
「喧嘩するな」と俺はキキリとクルクルをまとめて抱きしめて言った。
そして入場料と賭け金で俺たちは金待ちになった。
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