46.幼馴染
「怪我しているの?」と初対面のオキクルミは森で横たわる俺に訊いた。
ゲヘナの外れにあるゴルゴタという村で育った俺は隣国であるプルガトリオから時折来るモンスターと戦うのが常だった。
その日はモンスターを倒せたものの凡ミスで怪我をしてしまったのだ。
「スキルがあるから大丈夫」と俺は言った。
「エターナル・ゾンビ(無限回復)」というスキルは死にさえしなければどんな深手も治せる。治せるはずだが、そこまでの能力にするには経験が必要になる。俺はまだエターナル・ゾンビを十全には使いこなせていない。だから森の木に横たわって回復していた。
「便利なんだね!」とオキクルミは子供のように笑った。実際俺もオキクルミも子供だったから当たり前のことだけれど。
オキクルミの出自は知らない。村には時々プルガトリオからの難民が来る。プルガトリオは独裁国家だからだ。なのでオキクルミも難民の子供かと思っていた。
森で出会い森で別れる。そんな日々が続いた。
オキクルミは俺に付き合ってモンスターを狩るようになった。
俺は手斧を使いオキクルミは魔法使いだった。
ただオキクルミの魔法は見たことのない魔法ばかりだった。
「魔法というより模倣かも。見たものを何でもコピーできるんだ!」
見ていて、と言ったオキクルミは尖った石で自らの腕を傷つけた。
「何をしているんだ!」俺はオキクルミの腕を止血しようと鞄から薬草と布を取り出した。
「エターナル・ゾンビ!」と言って自身の傷口にオキクルミは片手をかざした。傷口は見る間に消えた。
ーーえ?
「チャラーン!」と言ってオキクルミはおどけた。まるで巡業で来る見せ物商会の道化師のように。
「す、凄いんだな」と俺は意気消沈して言った。俺だけの特殊スキルと思っていた能力がいとも簡単に模倣されたからだ。
「知ってる? モンスターも魔法を使うんだよ! モンスターの使う魔法は人間とは違うから誰も知らない魔法が使えるんだ!」オキクルミはクルクルと回って上機嫌で言った。
「それは頼もしいな」俺はやっと言った。「今日は帰る」
「え?」とオキクルミの声が聞こえた気がした。
❇︎
次の日森であったオキクルミは死にかけていた。
「オキクルミ!」
俺は樹木に扮したモンスター・トレントに捕まったオキクルミを解放すべく手斧で斬りつけた。
「ユカラ、バチが当たったよ。人の物を盗んだバチだ。ユカラのスキルはユカラだけのものなのに‥‥」オキクルミはトレントに拘束され手足から血液を抜かれていた。回復した矢先から血液を抜かれているので回復が追いつかない。
「クソッ! まずはトレントを倒す!」俺は攻撃を掻い潜りトレントの頭を手斧で割った。
「オキクルミ!」トレントの枝をオキクルミの体から引き抜いて俺は回復魔法をかけた。
「回復が追いつかない! だったら」俺は自身の手のひらを傷つけ、その傷口とオキクルミの傷口を合わせた。「血渡しだ。この上でエターナル・ゾンビ(完全回復)をかける」
もっと子供の頃、森の中で怪我をしていた小狐をこの方法で治した事があった。
「俺のスキルは俺の血液に反応する。もし俺の血液型とオキクルミの血液型が合わなければ二人共死ぬ」
「‥‥ダメ! ユカラは生きて‥‥」オキクルミは弱々しく言った。
「もう遅い。エターナル・ゾンビ(完全回復)!」
❇︎
後頭部が柔らかい何かに当たっている。顔にあたる木漏れ日が暖かい。
「気がついた?」
オキクルミは俺の顔を覗き込んでから顔をしかめた。そして大粒の涙が俺の顔に落ちてきた。
「ごめんなさい。ごめんなさい‥‥。私のせいでユカラが死にかけた」
「それは違う」俺はオキクルミの膝枕から起き上がって彼女の正面に座って言った。「二人で力を合わせて生き延びたんだ」
「ユカラ!」オキクルミは俺に抱きついて泣き続けた。
その後落ち着いた頃にオキクルミは妙な事を言った。
「もしユカラが起きなかったらダンジョンに頼むしかなかったよ!」
「ダンジョンに頼む?」
「生贄を捧げると死んだ人も生き返らせる事ができるんだよ」オキクルミは不穏な事を言った。
「生贄って」俺は少し怯えて言った。「ウサギとか?」
「人だよ」
「俺は俺の命を誰にも賄ってほしくない」
「大丈夫! その時は私の命を使うから!」とオキクルミは明るく言った。
俺はその後森の中でオキクルミにこんこんとお説教をすることになった。
命は大事に、とかそんなような事だ。
「冗談だよ」と遠くを見ながらオキクルミは言った。
❇︎
初めてギルドに来た。周りの大人たちは俺たちを奇異な眼差しで眺めている。
「冒険者登録したい」
「えっと、お父さんとお母さんの許可は得ているの?」受付のエルフは優しい声音で訊いた。
「俺もオキクルミも孤児だ。二人でパーティー登録したい」俺は言った。
「登録はできるけれど初心者クエストみたいなのはうちのギルドでは無いのよ」
俺は受付の机の上にオークの首を乗せた。「さっき狩ってきた。いくらで買い取ってもらえる?」
受付のエルフは臆する事なく言った。「あなた名前は?」
「俺はユカラ。こっちはオキクルミ。二人だけのパーティーだ」
「私はサヴァーよ。これからよろしくね」
❇︎
「ダンジョンを攻略するともっと沢山お金が貰えるんだって!」とある日オキクルミは言った。
「最近になって沢山出現したらしい。それまでは数えるほどしか無かったのに。俺達の森にも出来た。サヴァーからクエスト依頼があった」
「サヴァーね。へえ」
オキクルミはサヴァーの名前を出すと最近機嫌が悪くなる。
「行かないか? もし嫌なら俺一人で」と言いかけるとオキクルミは肩に手を回してきて言った。
「行くに決まっているでしょ! ユカラの相棒は誰?」
「オキクルミ」
「良し!」そう言ってオキクルミは俺の髪の毛をかき混ぜた。
俺たちは初めてのダンジョン攻略へと向かった。
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