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43.無刀体術


 二度目のダンジョン攻略の次の日、町外れの荒野で俺はハルニレとカンナに無刀体術の基本を教えることになった。


「一応歴史を教える。ゲヘナにある『試練の洞』は知っているか?    

そこから出てきた異邦人が水み国に渡って伝えたとされている」俺は言った。


「時々その洞から不思議な人が出てきてゲヘナの文化を発展させたって話は聞いたことがあるよ」とハルニレは言った。「そもそもこの世界ーー、『神無球かんなきゅう』という平面世界にある全ての国に言語や文化を教えたとも聞いた」


「まあそんな感じだ。よく知っているな。ともあれまずは打撃だな。構えと足運びを教える」


 俺は体を斜に構えて拳を握り片手を顔の横に片手を顔の前に構えた。そして顎を引き目線を前に送る。そこからやや前傾姿勢になった。

「打撃以外も警戒するならやや前傾が良いな」


 ハルニレとカンナ、何故かキキリも同じ構えをする。


「なんか、‥‥思ってたのと違う」とカンナは何故かガッカリしたように言った。セクハラ授業だと思っていたらしい。


 愚痴を漏らす割にはカンナが一番綺麗な構えになっていた。


「もう少し体を丸められないか?」と俺はハルニレに言った。


「なんか‥‥胸が邪魔で」ハルニレは居心地が悪そうに腕を上下している。


「この構えは防御主体だから攻撃主体の構えならハルニレでも上手く構えられると思うぞ」俺はハルニレの両腕を持って胸の前をやや広めに開けた。「ハルニレは手足が長いからこっちの方が良いかもしれないな」


「楽になった」とハルニレは喜色を示した。


「そこからさらに前傾姿勢にすると投げ技や寝業にも移行できる」俺はそんな具合で皆に指導した。


 初日は打撃の訓練をして次の日に投げ技、三日目に寝業を教えることになった。



「遂にこの日が来た」とカンナは草原の真ん中に立って空を見上げて呟いている。


 草原にした方が寝業は教えやすいと思い少し町から離れた場所に来た。


「投げ技の時も随分と文句を言われた記憶があるぞ」俺はその時の事を思い出して少し憂鬱になった。


「だって‥‥、ユカラが密着してくるから」カンナは頬を赤らめて言った。


「オッパイ触った!」とか「お尻に手が」というカンナのクレームを思い出して俺は軽く傷ついた。


「というわけで今日はハルニレとカンナに組み合ってもらう」と俺は宣言した。これならクレームを聞かずに済む。


 ハルニレとカンナは互いを見合った。それから片手を小さく挙げて同時に俺に向かって言った。「反対」


「え! いや女性同士の方がやりやすいだろう?」と俺は動揺して言った。


「女の子同士とか、そんな趣味はないし」とか「二人とも初心者だから分からない」とかブーブーと文句を言ってきた。


「俺も今は女の子なんだがな」と言いつつも結局俺が一方の相手を受け持ち、それを見たもう一人がキキリと一緒に真似をするという形になった。


「まずはこの体制から」と言って俺はハルニレを膝立ちにさせ、その前で俺は寝転び、股の間にハルニレを挟んだ。


「交尾!」とカンナは両手で顔を隠しつつ指の間からこちらを覗き見て叫んだ。


「違うわ!」と言ったものの確かに体制的には近いものがある。「ここからハルニレの腕や首を極める技を教える」


 そのようにして夕暮れまで訓練を続けた。


「訓練終わりで悪いがひとつ作業がある」俺は手荷物の中からダンジョンから持ち帰った繭を取り出した。「流石に宿で試すわけにはいかないからな」


 俺は繭の表面をナイフで軽くなぞった。

 その切れ込みに手をかけ軽く力を入れる。


 すると中からモンスターの子供が出てきた。双頭の犬、オルトロスだ。


「わ!」俺は驚いて尻もちをついた。


「え⁉︎」とカンナとハルニレも目を丸くして叫んだ。


 オルトロスは軽く身震いをしてそのまま荒野を駆けていった。


「オルトロスって繭から生まれるの?」ハルニレは無邪気に言った。


「いや、そんなわけないし」とカンナは呆然としつつ答えた。


 オルトロスは一応哺乳類だ。

 狐につままれたような気分で俺たちはオルトロスの去った荒野を見つめていた。

 キキリだけが手を振っていた。




 草と土に塗れたので宿のある町に戻った時に通行人に奇異な眼差しを向けられた。


「一応言っておくが無刀体術は対人間ーー、しかも武器を所持していない相手のみに通じる技だ」と俺はハルニレとカンナに言った。キキリは一撃で相手を吹っ飛ばせるのでここでは省いた。


「分かってるよ! 武器を使わない方がいい場合もあるしね!」ハルニレは笑って言った。


「ユカラにお風呂を覗かれた時に役に立ちそう」とカンナは真面目な顔つきで言った。


 いや、そんな事実は‥‥あったな。こりゃ一生言われるな。

 教えている時に妙な事に気づいた。皆の上達が早い。技を一度見ただけで覚えるだけではなく、その仕組みを理解して自分だけのオリジナル技まで編み出した。


「ステイタス画面に『上達速度アップ』とか『達人』とかいうワードは無いか?」俺は二人に訊いた。


「別に無いかな」「この『ツンデレ』って何?」という回答を聞いて、もしあるとしたら俺の方に特殊な技能があるのかもしれないと思い付いた。

 ステイタス画面を見られないので確認のしようが無いけれど。


「おお、姉ちゃん方! これから俺たちと一杯どうだ! 身なりが汚いのは大目に見るからよ!」と大男とその取り巻きが俺たちの前に立ち塞がって言った。


 大男達の横をすり抜けて俺たちは通り過ぎようとした。


「おい、待てよ」と大男はハルニレの肩を掴んだ。


「放しなさい」とハルニレは警告を与えた。


「放してみろよ」


 ハルニレは自身の肩を掴む大男の手首を掴んで相手の体に潜り込むように体を前傾させた。


 大男は宙を舞って頭から落ちた。そしてそのまま気絶した。


「逆一本背負いか。受け身が取れないから普通の人にはやるなよ」と俺は一応注意した。


「はーい!」と手を挙げてハルニレは答えた。


「兄貴!」と取り巻き達が大男を介抱すること声が聞こえた。


 宿に戻るまでの道中は普段は混み合って歩くのも一苦労だった。ハルニレのお陰で周囲から人が離れて歩きやすかった。



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