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41.スニーク・シーフ


「憲兵団とギルドの仲は悪い。王宮の直属に憲兵団が管轄されギルドは王宮の委託先だ。立場的には憲兵団の方が上だが規模はギルドの方が大きい。なので互いに情報共有はしない。縦割り行政だな」ニドは通りを歩きながら言った。


「お前の上司は誰だ?」と勇者・カーカはニドに訊いた。「罪人である俺を解放できたという事は憲兵団か?」


「お前はそれを知る必要はない。だが憲兵の情報はある程度掴める」とニドは言った。


 つまり憲兵団か、と勇者・カーカは考えた。しかし同じ憲兵団なら協力を要請できない事もない。なぜこんな回りくどいことをするんだ?

 勇者・カーカは首を捻った。


「憲兵のリストを見て一番使えるスキルが『アイドル・ストーカー(偶像崇拝)』だったというわけだ」ニドは街の壁面を見ながら言った。


 ゲヘナ王宮のある城下町は壁で区切られている。

 関所には門番がいてそこに憲兵はいる。


「交代の時間が来たら後をつける。ビースクは母親と二人暮らしだ。家に着くまでにスキルを奪うぞ」ニドは言った。


 ニド曰く「アイドル・ストーカー(偶像崇拝)」というスキルの持ち主であるビースクという憲兵はそのスキルを使う事なく漫然と公務を全うしているという。


「一つだけ守ってもらう事がある」とニドは勇者・カーカを睨みつけて言った。「殺すな」


「分かってるよ」と勇者・カーカは答えた。殺すほうが確実なんだがな、とも思ったが罪人である自分の立場を考え黙りこんだ。


 幸いなことに関所である門の側にはカフェがあった。そこで待ち構えることになった。


「交代だ」とニドはつぶやいた。

 それと同時に門番が変わり男がカフェに歩いてきた。


「いつもの」とカウンターにいた店主に男は言ってスツールに座った。


「あいつがビースクだ」とニドは言う。


 ビースクは口髭を生やした若い男だった。


「店を出たらやるぞ」とニドが言ったと同時だった。想定外の事が起きた。


「憲兵がこんな所で油を売って良いのかよ!」と酔っ払った冒険者らしき男がビースクに絡んできた。


「公務外だ」とビースクは言って相手にしなかった。


「公務外とか関係ねえよ! 俺の弟は憲兵に殴られて鼓膜が破れたんだぜ? 話しを聞く時はいつも右耳を俺に傾けてくるんだ。それが鬱陶しくてたまらねぇんだ!」と酔っ払いは叫んだ。


「知るか」とビースクは答えた。


「まずいな。喧嘩になったらルートを通らないかもしれん」ニドは小声でぼやいた。「せっかく調べ上げたのに」


「あいつは‥‥」勇者・カーカは立ち上がってニドに言った。「任せてくれ」


 おい待て、とニドは言ったが無視した。


「おい、ニーソル」と勇者・カーカは言った。「臆病者のニーソル!」


「なんだと! この野郎!」ニーソルは勇者・カーカの顔面を殴った。


 勇者・カーカはビースクの足下に倒れ込んだ。


「あんた、大丈夫か?」ビースクはスツールから降りて勇者・カーカに手を差し伸べた。


「ニーソル、お前の弟を殴ったのは東の門番だ。こいつじゃない」勇者・カーカは鼻血を拭ってその手でビースクの手を掴んだ。


「お前、カーカか。ああ、すまねえ。酔っ払っちまって」ニーソルは酔いが覚めたのかそのまま自分の席に戻った。


 ビースクは勇者・カーカの血の付いた手を握ったものの自分を助けた相手の血なのでしばらく拭かずにいた。流石に失礼だったからだ。


「助けてくれたんだな。ありがとう」とビースクは言った。


「憲兵は大変だな」と言って勇者・カーカはニドのいる席に戻った。


「言いたいことはあるが今は良い」と言ってニドは会計を払いに店主の方へと向かった。

 そして勇者・カーカと一緒に店を出た。


「手に入れたぜ」と勇者・カーカは得意になって言った。「俺の血液が付いた相手から俺はスキルを奪える」


「結果的に奪えたのは良いが次に命令に背いたら殺す」とニドは言った。


「分かったよ」と勇者・カーカは肩を落として言った。

 

「これでお前が弟から奪ったスキル『剣技』は消えたんだな」とニドは確認するように訊いた。


「奪ったスキルは一つしか持てない。その通りだ」と勇者・カーカは言って嗚咽を漏らした。「これで俺は本当の意味で弟を殺した事になった」


 裏通りで勇者・カーカは崩れ落ちるように四つん這いになって泣いた。


「自己憐憫はやめろ。殺された弟の身になれ」と言ってニドは勇者・カーカの頭を踏みつけた。



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