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40.トレース・ホライゾン


 荷馬車が三台、草原に停車していた。


「真ん中に奴隷。前が人員で後ろは荷物だな」俺は上空から確認した。「思ったより規模は小さい。大概奴隷使いは小規模だけれどな」


 ギルドに見つかれば火炙りだ。常に逃げる事を考えて行動すると即ち規模は小さくなる。


「まあ元締は別にいるだろうが」俺は皆に合図してハルニレをお姫様抱っこして飛び降りた。


 ハルニレは俺にしがみついて下を見ないようにしている。


 着地の瞬間にポルターガイストを出して落下速度を落とした。


 三人の斥候らしき男が山刀を構えて叫んだ。「どこから湧いて出た!」


 俺はあえてポルターガイストで拘束せず軽く吹っ飛ばすだけにした。


 三人の男が吹っ飛ばされると荷馬車の中から続々と山刀を構えた男達が躍り出てきた。


「一、ニ、三‥‥十人か。こんなもんかな。ハルニレ!」俺は合図してからポルターガイストで上空に向けて飛び上がった。


「トレース・ホライゾン(長距離居合)!」

 掛け声と共にハルニレは横薙ぎに刀を振るった。


 十人の男達の足首が切断された。

「ぐあああああ」とか「なんだこりゃ!」という怒号の後にすすり泣きが聞こえてきた。


「殺さないんだな」と俺はハルニレに訊いた。


「死んだら罪を償えないでしょ?」とハルニレは悲しげに言った。「嘘。死んだら奴隷になった子達の苦しみは分からないから」


 思った通り荷馬車からさらに数人の男達が出てきた。

 それをキキリに乗ったままのカンナがヴァジュラで昏倒させる。


「なんで私を外したの?」キキリと共に降りてきたカンナはいの一番に訊いてきた。


「まずはハルニレの経験値を上げたかったのが一つ」俺は慎重に言った。


「もう一つは?」カンナは訊いた。


「多分カンナは殺したと思う。その重荷を背負うだけの価値はコイツらには無い」


 正当な殺人はギルドでも容認される。だがカンナの情緒においてもそれが容認されるとは思えなかった。


「でも」とカンナは食い下がる。「私は何人も奴隷になった女の子を見てきた。ひどい扱いだった。私自身はスキルのお陰で無事だったけれど」


「コイツらが傷つくのは良い。だがカンナが傷つくのは嫌だ」


 人殺しのレッテルは他人からは隠しても自分の中には残りその後の人生についてまわる。


 カンナは顔を伏せた。そして俺に体当たりした。

「ゲフッ」

 体当たりしてそのまま俺にしがみついた。カンナの体の震えが伝わってきた。


 ちなみにカンナは女子の体の俺より頭一つ分背が高い。何度目かになる乳による窒息状態になった。

 俺は何度もタップして解放を促した。


「何よ。ハルニレとばっかり抱き合って。私だって‥‥少しはあるだから」自身の胸を押さえてカンナは恥じらうように言った。


 いや、現に俺は窒息死しかけたのだが。


 俺とカンナがちちくりあっている間にハルニレとキキリは真ん中の荷馬車を開けて奴隷を解放していた。

「もう済んだー? こっちも手伝って!」とハルニレはやや険のある表情で言った。


 最初に俺たちの所に逃げてきた半裸の女の子は荷馬車の中から出てきた女の子達と抱き合った。


 その間に俺たちは奴隷使い達を縛り上げて足首を切り落とした後の傷口にヒールをかけた。これでもう足首は付かない。

 罵詈雑言を続ける奴隷使いの一人の手首を切り落としてヒールをかけた。奴隷使い達は皆沈黙した。


「もしかしてユカラは‥‥」とカンナが何かを言いかけてやめた。


「ああ、俺は既に何人か人を殺している。もちろん強盗犯や女の子を襲う輩などの正当な理由のある殺人だ」俺はカンナに向けて言った。「野生の世界は弱肉強食だ。だからモンスターを狩るのは問題ない。だが人間世界にはルールがある。ルールを守れない奴は人間世界ではなく野生の世界で生きている。だから狩る」


「それって先代の王が国民に向けて放った宣誓に似ているね」とハルニレは言った。


「ああ、直接聞いていたから‥‥」と言いかけて慌てて言い直した。「直接聞いていた俺の親父の受け売りだ。受け売りの受け売りだな」


「へえ」と皆が関心した所で俺は街道を通りかかる荷馬車を発見した。駆け寄って事情を話すと憲兵を呼んできてくれるという。


 憲兵に犯罪者を引き渡すと賞金が貰える。農夫が憲兵を引き連れてきたところで俺は荷馬車の農夫にその権利を譲った。そして早々に立ち去った。


「賞金は要らないの?」とハルニレは不思議そうに訊いた。


「俺たちは冒険者だ。賞金稼ぎじゃない」と言ってから俺は付け加えた。「と格好付けたい所だが、手続きが面倒だからな。農夫には悪いけれど」


「農夫は喜んでいたぞ」とカンナは言う。


「畑が買えるって言っていたね!」ハルニレは楽しげに言った。

 

 そんな談笑しつつ歩いていると後ろから走って追ってくる者がいた。最初に出会った半裸の女の子だ。

「あの、ちゃんとお礼がしたくて!」


「それはいい。それより農夫から賞金の分け前を貰うのを忘れちゃいけないよ」俺は農夫に賞金の半分を元奴隷だった女の子に分け与える事を約束させた。


「それはもう」と言ってから女の子は首飾りを外して俺に渡した。「これ、受け取ってください! 奴隷使いに見つからないようにずっと隠し持っていた宝物です」


「いや、だったらこれからの生活の足しにしてくれ」と俺は首飾りを女の子に返そうと差し出す。


「すみません。それに金銭的価値はありません。ただ皆様方は冒険者であられますよね」女の子は矢継ぎ早に言った。「それはダンジョンの中でだけ役に立つアイテムです」


「それを何故貴女が持っていたの?」ハルニレは質問した。


「私の亡き母はシャーマンでした。古物屋で手に入れたその首飾りにはダンジョンの精霊を引き寄せる作用があるそうです」


「君、名前は?」俺は訊いた。


「シュウカイドウと言います」女の子は頭を下げた。


「俺はユカラ。この子はハルニレ、カンナ、キキリだ」俺はパーティーを紹介した。「シュウカイドウ‥‥水み国の出身か」


「はい! 両親に花の名前から名付けていただきました」シュウカイドウは嬉しそうに言った。


「ダンジョンの精霊か。初めて訊くな」俺は考え込んだ。



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