38.勇者・カーカの本当のスキル
「お前は弱い」とニドは勇者・カーカに再び言った。「おそらく足を引っ張る」
「王女なんてどうせ温室育ちだろう? それに暗殺なら対処できない」勇者・カーカは他人事のように言った。「俺でも倒せる」
「今まで王女はーー、特に第三王女は何度も暗殺されかけている。だがことごとく逃げおおせている」ニドはコーヒーのカップを一口啜って言った。
「暗殺者がヘタ打っただけだろう」
「どんな場面でも必ず助けが入る。まるで事前に暗殺を知っていたかのように」
「予知能力でもあるってか。馬鹿馬鹿しい」
「そう言う噂もある」ニドは怪訝な顔つきで続けた。「だがそんなスキルは聞いたことがない。ありえない。少なくとも人間でそのスキルを持つ者はいない」
「なんでそんな事が言えるんだ? 世界中の人間を調べた訳でもないだろう?」勇者・カーカはなんとかしてニドを屈服させたくなり、難癖を付けた。
ニドは頬杖をついて窓を見た。渡鳥が荒野を超えて飛び去っていく。「そういうスキルがある。誰がどのスキルを持っているか分かる。『ヒューマン・ビューアー(人類目録〕』と言う」
「嘘くさいな。盗賊辺りがいうハッタリじゃないのか」勇者・カーカは小馬鹿にするように言った。
「勇者・カーカ。お前の能力は『剣技』となっているが違う。それは幼い頃に弟から奪った能力だ。奪った能力はステイタス画面にも反映されるから皆騙される」
勇者・カーカは自身の背中に汗が流れるのが分かった。俯いてニドの次の言葉を待った。
「お前の本当のスキルは『スニーク・シーフ(卑怯者)』。他人のスキルを奪う能力だ。カーカは弱いがスキルは使える。だから牢から出した」ニドは立ち上がって言った「そしてニドのスキルは『ヒューマン・ビューアー(人類目録〕』だ。さっきも言ったな。世界中でニドしか持っていないスキルだ」
勇者・カーカは恥ずかしさで動けなかった。今まで誰にも話していないスキルを当てられたからだ。
「どうした? 今から目当てのスキルを奪いに行くぞ。スキル名は『アイドル・ストーカー(偶像崇拝)』。残念ながらニドのスキルは名前とそれに紐づいたスキルは分かるが場所は分からない。『アイドル・ストーカー(偶像崇拝)』は目星の対象の場所が分かる」
「‥‥嫌だ」絞り出すように勇者・カーカは言った。
「駄々っ子みたいだな。大人でその態度は見苦しいぞ」ニドは呆れたように言った。
「俺はーー、剣士だ。こそ泥みたいなスキルは持ち合わせてない」床を見ながら勇者・カーカはやっと言った。
「牢屋に戻りたいなら好きにしろ。逃げたとしても賞金首になるだけだ。安心しろ。ニドは小物は狙わない。だからニドに殺される事はないだろう。ニドより格下の相手になぶり殺しになるだけだ」
「賞金首になると捕まえるよりなぶり殺しにした方が効率が良いのは知っている。移動の時に逃げられる心配が無いからな」
「大体は首だけを切り取るらしい」ニドは無感情に言った。「首だけでも重いから脳髄液と血を抜く為に一日天日に晒す。その間にカラスに突かれて目玉が無くなる事も多い。それでも賞金は貰える。だから賞金首は盗賊上がりが多いと聞くな」
勇者・カーカは乾いた喉に生唾を飲み込んだ。手足が震える。ニドが言った生首を実際に見たことがあるからだ。
「ギ、ギルドだけは敵にまわさない方がいいって元のパーティーのオッサンが言っていた」
「オッサンか。そいつは幾つくらいだ?」
「多分、五十過ぎくらいか」
「さぞや腕の立つ奴だったんだろうな。五十過ぎの冒険者はほとんどいない。何故か分かるか?」
「知らねえよ」
「皆その前に死ぬからだ。その年まで生き残るならそれはすなわち強者ということだな」
「じゃあ、頑張って逃げろよ」とニドは会計表を手にした。「奢ってやるからニドの元には化けて出るな」
「ま、待て」と勇者・カーカはカウンターへ向かうニドに言った。「そのアイドルストーカーってスキルを奪う理由はなんだ? その持ち主を直接仲間にすれば良いだけだろうが」
「それは無理だ」ニドは勇者・カーカのいるテーブルに戻りつつ言った。「奴の名前はビースク。職業は憲兵だ」
「‥‥憲兵」確かに仲間にはできそうもない、と勇者・カーカは思った。
「さて。まずはスキルを奪う手順を話せ。それから計画を立てる」ニドは椅子に座り微かに笑った。
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