37.バーテックスルール
「ギルドで噂のアマゾネスじゃないですか」と治癒師・ジュークは嫌らしく言った。「またあなた方に先を越されたわけですね」
「はわわ」と慌てた小さな声の後にハルニレの顔が変わった。ミミに指示したらしい。
「本当にコイツらが倒したんですかね」と年若い魔術師・モーリは言った。「お前ら何か小狡いことをしたんじゃないか?」
相変わらずのチームだった。だが俺はカーカがいない事に気づいて妙な気分になった。
俺は事前の取り決め通りマーカーを描いてから皆に行った。「帰ろう」
「いや、ちょっと待て」と大剣使い・カマールは行く手を遮って言った。「本当にお前たちがダンジョンマスターを倒したのか?」
「倒したよ」とカンナが前に出て言った。
「新しいパーティーでは随分と喋るな」大剣使い・カマールは表情をこわばらせてつぶやいた。「借金がなくなった途端にこれか」
「アンタらには関係ない」カンナはいつになく苛立って言った。
「証明してみせろよ」と年若い魔術師・モーリは野次を飛ばすように言った。「汚い手を使ってダンジョンマスターを倒したと言いふらされたく無かったら証明してみせろ!」
ダンジョンマスターを倒すのに汚いも何もない。どんな手を使っても倒せた者にダンジョンの権利が与えられる。
と説明しても聞かないだろう。それに俺としても目的の為にカーカのパーティーで甘んじて我慢していた所もある。
「証明? 君らと戦えって事か?」俺は挑発するように言った。
「そんな勇気も無いだろう。こんな女だらけのパーティーでは」大剣使い・カマールはまるで勝算があるような口ぶりで言った。
俺としては常にダンジョン探索に時間を使いたい。だがこの先どんな邪魔をしてくるか分かったものではない。男の嫉妬は粘着質だからだ。
「ではーー、決闘だな」俺は言った。
このギルドでは決闘の申請をすれば賭けの対象となりギャラリー付きのイベントになる。
ギルド側が賭けの儲けを取り、出場者は入場料を取り分とするのが恒例だ。
「代表者による一対一だ。勝負方法はどうしたい? なんでもいいぞ」俺は言った。
「ああ? 随分と余裕だな小娘。もし徒手空拳にしたらその小さい身体と俺が肉体のみで戦う事になるんだぜ!」
取りようによっては優しい言葉に聞こえなくも無い。おそらくもし徒手空拳で戦って勝ったとしても小娘を蹂躙する大男という図式に懸念を抱いたからだろう。ギルドでの評判はガタ落ちだ。
「構わない。バーテックスルールでもいいぞ。勝った方が入場料を総取りだ」
バーテックスルールとは武器も魔法も使用した本番さながらのバトルだ。
「なんだと? 下手すりゃ死ぬぜ! 構わないのかよ!」大剣使い・カマールは叫んだ。
「基本的には『参った』と言った方の負けだ。安心しろ、殺す気はない。手加減はできる」俺は本気で言った。
「あらあらまあ、お嬢さん。この男はこのパーティーに入る前は盗賊のボスだった男ですよ。『参った』なんて訊く前に殺してしまうかもしれませんよ!」治癒士・ジュークは気取って言った。
「うるせえ! この小娘がいいって言ってんだ! やってやる!」大剣使い・カマールは治癒士・ジュークの取りなしを無下にして叫んだ。
カマールの激昂の様子やパーティー内の関係性からカーカが抜けたことを察した。
「カーカはどうしたの?」とそこで俺の心を読んだかのようにカンナが質問した。
「お前を不当に搾取したとかで豚箱行きだ。ギルドの登録からも削除されたらしい。ざまあないね」と年若い魔術師・モーリは積年の恨みがあったのか心底嬉しそうに言った。
「へえ」とカンナは何の感慨もなく言った。
「日付は十日後で良いか。多少日を置いた方がギャラリーも増える」俺は入場料の粗利を計算しながら言った。
「それまでの余命だ。存分に楽しめ」と大剣使い・カマールは言った。
そして俺たちは帰ることにした。
言い出せずにいた繭についてはダンジョンを出てから話そうとポルターガイストで持って帰ることにした。
「あ、待って」とカンナは言って「エレクトロ・スフィア(雷神繭)」と唱えた。「これ、見える?」
「いや、何も」とカンナが指差す背後を見たが洞窟が続くだけだった。そしてそのはるか先から大剣使い・カマール達が来るはずだった。
「え? 殺しちゃうの?」と顔を元に戻したハルニレは訊いた。
「少し懲らしめるだけ」とカンナは言ってウインクした。
洞窟をだいぶ進んだ頃に遠くから数人の男達の叫び声が聞こえてきた。
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