35.レベルアップ
ダンジョンマスターは巨大なタコだった。
「嫌な予感がする」と珍しくハルニレが言った。この手の鋭い指摘はカンナの方が多いのだが。
「そうかな。そこまでの相手には思えないけど」カンナは短剣を構えて言った。
「行くぞ」俺はポルターガイストでタコの触手の二本を抑えた。ハルニレが突進して俺が抑えた触手を切るという作戦だ。
カンナはあえてトドメを刺す役割にした。
「ハアッ!」ハルニレはいつになく真剣に戦闘に向き合っている。触手を一本切り落とした。
即座に俺はポルターガイストを外しハルニレに伸びてくる別の触手を抑える。
「順調ね。私の出番はあるかな」カンナは呑気に言った。
五本の触手を切り落とした時点で本体も動き出した。
「そろそろだと思っていた」俺はキキリに合図を送る。
キキリは敬礼して体をニ回転させた。
妖狐の姿になったキキリの背中に俺とカンナは乗り込んだ。
「やっぱり狡くない? 私もキキリに乗りたい!」ハルニレは触手を避けながら叫んだ。
「皆で決めた事だろう。それにダイエットになるからやりたいって言い出したのはハルニレだぞ」とカンナは冷めた口調で言った。
「だ、だって思ったより触手が長いから‥‥余計に走らないと、だから」ハルニレは息も絶え絶えに言った。
「まずいな、ハルニレが限界だ」俺は呟く。
「オッパイの揺れも小さくなったしね」とカンナは真面目な顔で言った。
「と、ともかく少し早いが次の作戦に移行する」俺はカンナとキキリに言った。
「了解」とカンナは答え、キキリも頷いた。
触手の一本が遂にハルニレを捕らえた。ハルニレの体に触手が巻きつき、何やらエロい状況になる。
「いや、何これ! 変な所触らないでよ!」ハルニレは定型分のような叫びを漏らした。
「行くぞ。キキリ、俺を下ろしてくれ」ハルニレの予想が当たった事を確認しつつ俺は言った。確かにハルニレなとっては嫌な出来事だ。
キキリはハルニレの側まで急降下した。
俺はポルターガイストでハルニレを捕らえた触手を掴み、短剣でそれを切った。
そしてポルターガイストでハルニレを掴み触手から解放した。その流れでキキリに乗せた。
「こっちに来い!」今度は俺がハルニレの代わりに囮になる番だった。
ただ俺の短剣ではリーチが足りない。なので触手は狙わない。
触手を掻い潜って走った。
「凄い」とカンナの声が聞こえた。「でもあの短剣は‥‥」
女子の体になったおかげでとにかく体が軽い。思ったとおりに手足が動く。
時折ポルターガイストを使って空中を三次元的に動きつつ、巨大タコの頭の上に乗った。そこからあえて滑り落ちて短剣で片目を刺した。
巨大タコは痛みで暴れ回る。振り回される触手が岩を砕き土を舞い上げる。
俺はそれを冷静に見定めて再びポルターガイストを使って巨大タコの顔の前に来た。そしてもう片方の目を潰した。
「カンナ!」俺は叫んだ。
「ヴァジュラ(雷神雷刀)!」カンナの叫び声と共に電撃が巨大タコの全身を焼き尽くした。「ハルニレ!」
「復活!」キキリの背中で一休みしたハルニレは飛び降りながら巨大タコを真っ二つにした。「倒した!」
そこで不思議な事が起きた。
巨大タコの中から繭のような物が現れた。俺はそれをポルターガイストで抱える。ちなみにポルターガイストの感覚は手にも伝わる。
「結構重いな。赤子くらいあるか」
同時に「レベルアップしました」の声がカンナとハルニレの方から聞こえた。
「やった! ダンジョンマスターを倒すとやっぱり違うね」ハルニレは早々にステイタス画面を開いて言った。「この『長距離居合』って何かな?」
「遠くから一太刀で相手を切り裂くスキルだな。一撃必殺だ。凄いぞ」俺は解説した。
「私は『エレクトロ・スフィア』というスキルが出た。初めて見る」カンナは頭を捻った。
「罠の一種だ。通りに巨大な球電を発生して道を塞いぐ。そして罠にかかった相手を感電させる。飛び道具にも使える。電力を調節すれば命を奪わずに相手を無力化できる。ただ時間は限られる」
へー、と呟くカンナの頬は紅潮する。嬉しかったらしい。
そして俺の顔をマジマジと見る。
「な、何かな」俺はカンナの視線に違和感を覚えて言った。
「別に」とカンナはそっぽを向いた。
気まずい沈黙を打破しようと俺は繭について皆の意見を聞こうと口を開いた。
「これさ」
その時だ。
「ああ、クソッ! 先に仕留められた!」という声が聞こえた。
「あれ、カンナじゃないですか」という聞き覚えのある声が続いた。
大剣使い・カマールと治癒師・ジューク、年若い魔術師・モーリがそこにいた。
俺をモンスターの餌にしようとした、勇者・カーカ率いるパーティーの面々だった。
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