33.キキリのパンチ
次の空間への扉が見えた。
キキリは重力ウサギを放し、人間に戻った。
「退治しないの?」とハルニレは訊いた。
「重量ウサギの餌は地面に生えた苔だ。あの空間はただの慰みにしか過ぎない。無害か有害かといえば有害かもしれない。だがそれを言ったら生物はすべて有害になる」俺は歯切れ悪く答えた。実際退治した方が帰り道は楽だろう。
「いいんじゃない」とカンナが答えた。「多分ユカラ様もそう言うと思う」
キキリも俺の腕に頬ずりしてきた。
なんとなく照れ臭くなった俺は言った。
「ここから未踏の空間になる。気を引き締めていこう」
「はーい」とハルニレとカンナは答えた。キキリは両腕を上げた。
まるでピクニックだった。
思った通りそこからのルートは楽だった。それなりにモンスターもいたがカンナが察知してハルニレがとどめを刺すという展開が続き俺の出番はなかった。
「強くなってないか?」俺は休憩の時にハルニレに訊いた。
「嘘! やっばり?」ハルニレは嬉しそうにステイタス画面を開いた。「やった! もうすぐレベルアップだ」
「私も」とカンナもステイタス画面を開いて言った。
俺も開いてみる。やはり読めない。
キキリも皆の行動を見て真似をするもそもそもモンスターなのでステイタス画面は出ない。
「んん」と声にならない唸りを出す。
「ステイタス画面が出ないのか」と俺はキキリに訊く。
キキリは俺に抱きついて泣き顔を擦り付けた。
「そもそもモンスターは存在するだけで強いから必要ないんだ」
そう言ったもののキキリの気持ちも分かる。
俺は荷物から紙とペンを出してキキリの名前を書いた。
そして「攻撃・防御・素早さ」と書いてそれぞれの隣の余白を空白のままにした。
「俺がキキリのステイタスを計る。まずは攻撃だ」そう言って俺は手のひらを前に構えた。「ここにパンチを打ち込んで」
キキリは俺を見てそれからハルニレとカンナを見た。
二人が頷くとキキリは俺の手のひらに向けてパンチを繰り出した。
正直なところ、キキリの気持ちを考えたお遊びのような気分でいた。
キキリのパンチが当たった瞬間、俺の右腕が千切れて飛ばされるような気がして全力で受け流した。
それでも体は吹っ飛んで壁に激突した。
「ユカラ!」ハルニレとカンナの叫び声が聞こえた。
これは死んだか、と思った。
薄れゆく意識の中そういえば俺には全回復のスキルがあったと思い出した。
気がつけばハルニレの膝の上だった。
キキリは泣きながら俺にしがみついている。どうやら回復魔法をかけているらしい。
「もう大丈夫」と俺は起き上がった。「久しぶりに気絶した」
おそらく最後に気絶したのは何十年も前だ。
キキリは一瞬パッと笑顔が戻り、再び涙を何度も拭っていた。
「気にするな」俺はキキリの頭に手を置いた。「よく考えたらダンジョンマスターに囚われていたくらいだからな。そりゃ強いはずだ」
キキリは再び俺に抱きついた。
「見てろよ、ほら」俺は落としてしまった紙にペンで「攻撃100」と書いた。
それを見てキキリは喜んだ。
なんとなく視線を感じてハルニレとカンナを見る。「どうした?」
「いや、なんかお父さんみたいだと思って」と何故か顔を赤くしつつ目を逸らしてハルニレは言った。髪を何度もとかしている。
「べ、別に。ユカラ様の方が素敵だから!」とカンナは意味不明な事を叫んだ。
内心色々とツッコミ所はあったものの俺は立ち上がって言った。
「行こう、次の空間へ」
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