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23.ギルド


 蒸気が晴れた時に小狐は少女の姿になった。


「また裸!」とカンナは俺と少女の間に立って視界を遮った。「あっち向け!」


 ビンタのオマケ付きである。視界にキラキラした星が瞬いている。

「なんでこんな目に」


 ハルニレとカンナは伽藍の中を探し回って少女に着せる服を探した。


「まあ無いよりはマシかな」とカンナは少女に赤と白の「ジュバン」と呼ばれる水み国の下着を着せて満足気に言った。「なんで水み国の服がここにあるのか分からないけれど」


「可愛い!」と言ってハルニレは少女に抱きついた。


 少女は照れながらもまんざらでも無い様子に見えた。

 だが俺には懸念事項があった。

「喋れないのか?」


 少女は頷く。


「順当に考えるならダンジョンマスターであるマンドラゴラのせいだな」と俺は言ってから少女に確認した。「それで合っているか?」


 少女は頷いた。


「呪いかもしれん」と俺は言いつつごく自然に訊いた。「行く場所はあるのか?」


 少女は首を横に振る。


「じゃあ一緒に来るか?」


 少女は初めて笑顔を見せた。そして首をブンブンと縦に振った。


「ユカラ」と不意にカンナは言った。「攻略したダンジョンにはマーカーを描かないと後から誰かに横取りされる」


「そうだったな。別に横取りされてもいいんだけれど」


「ダメだよ!」とまたもハルニレとカンナはユニゾンで言った。


「まあ資金があるに越した事はないか」と言ってから俺は訊いた。「マーカーを描きたい人はいるか? 俺はどっちでも」


「いいから描きなさいよ!」とカンナは俺の背中を押した。

 

 促されるまま俺はダンジョン攻略のマーカーを描いた。これでこのダンジョンで取れるお宝の何割かは自動的に俺たちの物となる。そしてギルドから報奨金も得られる。


「まあ養う相手も出来た事だしな」と俺は呟いた。


「え?」

「え?」

 ハルニレとカンナは今度は少しズレて言った。


「ああ、この女の子をしばらく面倒みないといけないからな」と俺は言った。


「えっとユカラは元は男の子だよね?」カンナの顔はひきつっていた。


 残念、元はオッサンでした。

「仕方ないだろう。放っておけない」


「私もカーカのパーティーを抜けたから行く場所がない」カンナは何故か胸を張って言った。


 養えと。


「わ、私もしばらく帰れない‥‥かも?」とハルニレも続いた。


 嘘臭いな。

 しかし一人も三人も一緒か。一緒ではないな。

 だがーー。

「これからこの四人でパーティー申請しても構わないか? そうすればマーカーの権利を均等に分けられる」


 カーカは権利の分割を行わなかった。パーティー用のマーカーではあったが取り分はリーダーであるカーカの独り占めに近い。

 同じように俺一人が権利を持って皆にその都度生活費を譲渡するのも対等な関係にはならない。


「私お金持ちだから権利は要らないよ」とハルニレはサラッととんでも無い事を言った。


 そういえばあの甲冑は高そうだった。惜しげもなく置き去りにしていたし。


「私は‥‥まだカーカに借金がある」とカンナは勇気を出して告白した。


 俺は知っていたので特に感慨はない。感慨はないがそれもあって権利を分割したいと思った。


「いくら?」とハルニレはセンシティブな話題をまたもサラッと訊いた。


 顔を真っ赤にしたカンナはハルニレの耳に口を寄せて呟いた。


「なんだ、それっぽっち? 払ってあげるよ!」とハルニレは悪気もなく言った。


「いや、それは流石に! ‥‥ちょっと‥‥」カンナは小さくなって言った。


「だってカンナには沢山助けてもらったから! カンナがいなかったら今頃死んでいたかも? 命の値段としたら安いものだよ!」ハルニレはバンバンとカンナの背中を叩いて言った。


 なんというか、兄貴! と言いたくなる切符の良さだった。

 ただ家に帰れない設定はどうした。流石に大金は家にあるのだろうし。


「もちろんユカラもだよ」とハルニレは頬を染めて言った。「いつか体で払うから」


「いや、金で解決しろよ!」とカンナは立場を忘れてつっこんだ。


 少女はそんな俺たちの様子を見てクスクスと笑った。


「そういえば名前はあるのか?」と俺は少女に訊いた。


 少女は思案したのちに座り込んで床に名前を書いた。

 埃を避けて書かれた字は「キキリ」と記されていた。


「キキリか。良い名前だな」と俺は言った。


 キキリは笑顔で顔を仰いで暑がった。

 照れて恥ずかしかったらしい。

 そして俺の胸を人差し指でチョンチョンと触ってから離れた。


「見ていて、て事かな?」と俺が翻訳するとキキリは頷いた。


 おもむろにジュバンを脱いでから飛び跳ねて一回転した。

 すると先程の小狐に変わった。


「おお、変身できるのか!」俺は思わず拍手した。


「幼女の裸体」とか「止める間も無く」とハルニレとカンナは何かを言ったが無視した。


「役に立ってくれる、と言いたいんだな?」と俺は翻訳した。「頼りにしているよ」


 さらにキキリはもう一回転した。

 キキリは人が数人乗れるくらいの大きさになった。


「凄いな!」俺はキキリを見上げて感嘆した。


「まあこれなら万一の事があっても」とか「襲われる事はないかな」とかハルニレとカンナは聞こえるように俺の悪口を言ったので無視した。


 キキリは少女に戻ってジュバンを着た。そして俺に抱きついた。

 俺はその頭を撫でた。


「事案!」と言ってハルニレとカンナから両頬を引っ張られた。



 ダンジョン攻略の成果とパーティー申請のためにギルドに向かった。


「ダンジョンを攻略したから手続きをしたい」俺は受付に言った。


「はい、ダンジョン攻略ですね、‥‥ダンジョン攻略⁈」受付は俺を二度目した。「あなた達だけで?」


「そうだ」


「女性四人と使い魔が二匹に見えますが?」


 クルクルは使い魔ではないが面倒なので言った。「そうだ」


「もしかしてリーダーはあなた?」


「まだ未登録なんでパーティー申請の手続きもしたい」


「わわわ、分かりました!」と受付は慌てて椅子から転げ落ちた。


「大丈夫か?」という俺の言葉を無視して受付は奥に消えた。


「お前らがダンジョン攻略したってのか?」ギルドにたむろしている冒険者の一人が訊いてきた。


「ステイタスの地図に出ているだろう?」俺は説明した。

 ダンジョンが攻略されると地図上のダンジョンに踏破できる道筋ができる。

 そしてダンジョン区間に商標として俺のマークが付く。


「あんたユカラって言うのか?」冒険者はステイタスを開きつつ訊いた。


「ああ」


「みんな聞いたか!」冒険者はギルドの連中に大声で知らせた。「このお嬢ちゃん達がダンジョン攻略したってよ!」


 大歓声が起きた。

 女子だけのパーティー、そしてダンジョン攻略の知らせにギルドは湧いた。

 ここ何年もダンジョン攻略できた者はいない。当然か。


 キキリは怖がるし、ハルニレもずっとミミの能力で顔を変え続けているのが辛いと言い出したので事務手続きを済ませて早々に退散した。


「顔を変えるのはどのくらい保つんだ?」と俺はギルドからの帰りにハルニレに訊いた。


「三日くらい?」とハルニレは言った。


「それなら別に辛いわけではないんだな?」


「顔を崩すのが心理的に辛いのよ。男でいた方がましなくらい」とハルニレは独特の感性で言った。


「そういうものか」と言いつつも俺も女子でいるのは慣れない。

 ギルドに行く前にカンナに服を見繕ってもらったものの違和感が強い。


「体は軽いし柔らかいから動きやすい。しかしどうにも非力で不安だ」と俺は正直な感想を言った。


「キキリみたいに変身できないの?」とカンナは訊いた。


「出来ればそうしている」慣れたオッサンの姿にいつの日か戻れる時は来るのだろうか。


「あのヌシには会わなかったね」と不意にハルニレは言った。


 俺とハルニレが一時的に分断された時に出会った巨大なモンスターのことらしい。「ハルニレも見たのか」


「てっきりアイツがダンジョンマスターかと思ったのに」とハルニレは腕を組んで思案した様子だ。「まああんな大きなモンスターは倒せる気はしないけどね」


 ダンジョンマスターはダンジョン内部の統制が出来る。そこに住むモンスターは言わば傭兵である。傭兵の方が強いということも無い話ではない。


「マンドラゴラがキキリを生かしておいたのはあの上物の姿を借りていたからか?」と俺は不意に思いついてキキリに訊いた。


 キキリは腕を組んで渋い顔つきで首を傾げた。よく分からないらしい。


「そこまで強いダンジョンマスターではなかったから作戦の一つとしてキキリの姿を借りたんだと思う。ユカラが引っかかったようにね。そしてその為にはキキリは生かし続ける必要があった、という理屈じゃないかな」とカンナは持論を述べた。


「なんか当たりっぽい」とハルニレも同調した。


 確かに筋は通る。

 となると別の疑問が浮かんだ。


「キキリは人間なのか? それとも狐?」



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