21.決戦
カンナは目を輝かせて俺を見た。
俺が頷くとカンナは喜色満面でガッツポーズをした。
空中で宙吊りになって腕を押さえているカーカを見てカンナは俺の仕業だとすぐ気づいたのだ。
ちなみにポルターガイストは俺以外は誰にも見えない。
そして今回は手で操作せずに頭の中で思い描いただけで動いた。
もしやこれが二回目の脱皮の効果なのか?
ポルターガイストを解除するとカーカは地面に落ちてさらに無様に叫んだ。「痛えよお、クソッ」
「大丈夫か?」と俺は一応言った。
カンナは笑いを堪えている。
「撤退させてくれ」とカーカは腕を押さえて足を引きずり、俺の答えも聞かずに扉を開けて出て行った。
カーカの姿が見えなくなった所で俺はカンナに訊いた。
「こんな程度で良かったか?」
カンナは俺に抱きついて「大好き! ユカラ様の次に!」と言った。
「はい、夢の通り」と冷めた声音でハルニレは言った。そしてミミに何かを言って早々にいつもの美形の顔に戻した。
予知夢について話していた時にカンナに制されて言わなかった予知はこれだったのか。
「もしこの未来が消えていたらそれはつまりカーカの腕を折る事は無かったという事か」
因果は逆になるが。
「あ、そうか」と言ってからカンナは不意に俺から離れてモジモジした。「未来を変えないで正解だったかも」
「二発目来るよ!」とハルニレは低い声音で叫んだ。機嫌が悪そうだ。
ダンジョンマスターを前に呑気にしていた俺とカンナは現実に戻された。
突風はかなり強烈だが当たっただけで死ぬ事は無さそうだった。
俺はポルターガイストを飛ばして壁にしがみついた。
もう片方の腕でカンナとハルニレを抱えた。
当たる瞬間に避けた。そしてその出所を見た。
伽藍の極彩色の装飾にまぎれて少女の後ろに何かがいた。
「アイツだ!」と俺は空中でカンナとハルニレに言った。
「え? どれ? というか私は今どこにいるの?」とハルニレは言った。上下が逆転しているので無理もない。
「ヴァジュラ(雷神雷刀)!」カンナは俺の指す先に向けて雷を放った。
少女の後ろにいた何かは逃げた。ヴァジュラは近くにいた何かに追尾する。少女に当たる前にカンナはヴァジュラを消した。「狡猾な奴だ」
実際の放電ではこうはいかない。おそらく魔法と電気を融合させているのだろう。
そして俺はその光景を見て気づいた。少女はあの場から動けない。
「カンナ! アイツに攻撃を出し続けてくれ!」
「了解」
ポルターガイストを解除してハルニレとカンナを地面に下ろした。
カンナは伽藍の中をくまなく探してヴァジュラを撃ちまくっていた。
俺は少女の前に来て言った。
「動けないのか?」
「コレがあると動けません」と少女は言った。
少女の両足には蔦のようなものが絡まり床に縫い付けていた。
「君はなぜこんな事になっているんだ?」俺は蔦を切ろうと短剣を懐から出して言った。
「母と山菜を採っていたらいきなりモンスターが現れて」少女は泣きながら言った。
何かおかしい。
なぜ少女はこんな所で動けなくされているんだ? 餌にするにしてももっと全身を蔦で巻き付けた方が‥‥。
そう思った矢先に少女の足に巻きついていた蔦が俺の体に巻きつこうとしていた。
俺はハルニレと共にポルターガイストで瞬時にその場から離れた。
「カンナ、ソイツへの攻撃はやめてくれ!」俺は間違いに気づいて叫んだ。
「分かった!」カンナが攻撃を止めると案の定、突風も来なかった。
少女の足元から生えた蔦は宙をさまよい、再び少女に巻き付いた。そして少女は歩きだす。
「助けてって言ったのに酷いじゃない」と少女は顔を歪ませながら言った。
「やはりあの時の声の主か」俺は言った。
「どういう事?」ハルニレは剣を構えて困惑しつつ訊いてきた。
「コイツがダンジョンマスターだ」俺は目の前の少女を指して言った。
「面白い体をしているわね。次の体は貴女に決めたわ」と少女は言って無数の蔦を伸ばしてきた。
「ヴァジュラ(雷神雷刀)!」カンナはその蔦を全て雷撃で炭にした。
「貴女も良いわね」とダンジョンマスターは新たに蔦を出して怯まずに攻撃を繰り返した。
「くっ」カンナはヴァジュラを出し続けた。「キリがない!」
「わ、私も手伝う!」とハルニレは剣で応戦しようとする。
「貴女だけはダメ」とダンジョンマスターの蔦はハルニレを弾いて転ばせた。
「なんでよ!」と特に怪我もなくハルニレは憤慨した。
少女は上物で本体は地面か。 もしや。
「皆、耳を塞いで!」
俺は耳を塞ぎつつ蔦の根元をポルターガイストで根こそぎ掴んで引っこ抜いた。
「ウギギギギギギ!」意味不明な叫び声を上げたダンジョンマスターの地下茎は人間の形をしていた。
上物の少女の下にまた人間の形の球根がある。
「やはりマンドラゴラか!」俺は人間の形をした球根を宙吊りにした。「カンナ!」
「ヴァジュラ(雷神雷刀)!」カンナは叫んだ。
雷撃がマンドラゴラを一瞬で焦げ付かせた。
「私だって!」ハルニレはその球根を刀で一閃して真っ二つにした。
「二人とも耳を塞いで!」俺は指示を出した。
「ああああああああああああああ!」マンドラゴラは再び叫んで絶命した。
塞いだ耳にも届く叫び声に一瞬立ちくらみがした。
「やはり伝承通り、叫び声を聞くと死の可能性があるみたいだな」
「えっと、じゃあアレは‥‥?」カンナはずっとヴァジュラを放って追いかけ回していた相手を見た。
銀色の小狐がいた。
「すまない。君は俺たちを助けていたのに。攻撃をさせたのは俺だ」俺は跪いて小狐に頭を下げた。
「どういう事?」とハルニレとカンナはユニゾンして言った。
「この小狐は俺たちを助ける為に突風を放っていたんだ。‥‥おそらく此処に近づけない為に」俺はふと思い立って訊いた。「あの少女の姿は君の本来の姿か?」
小狐はブンブンと頭を縦に振った。
「という事は‥‥?」ハルニレは顎に人差し指をあてて考える。可愛い。
すると突然小狐から蒸気が立ち込めた。
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