頑張るのは誰のため?
ガキンッ!ガッ!
木剣とは思えない音が空き地に響く。
レオの一撃が私の剣を跳ね上げて、間髪入れず首元に冷たい感触が当たった。
「…っ、く、…また負けた。強いね、レオ」
「シャルルも上達したな。危うく負けるところだった」
レオの手を取って立ち上がる。
1ヶ月もしないうちに『身体強化』の方法は身について、今はレオと剣術の試合をしたり素振りをしたりしている。おかげで剣の扱いにはなれてきたけど、いまだにレオには勝てたことがない。
「練習に付き合ってくれてありがとう。俺一人だと伸び悩んでたから助かる」
「ううん、僕も、剣術教えてもらえてありがたいよ」
イケショタには外見だけじゃなくて中身も大事だ。
私の見た目は中性的で王子様のようなオーラがあるから、剣を持っている姿は相当絵になるだろう。
訓練に使っている空き地には鏡がないから残念ながらその姿は見れないのだけれども。あー、カメラがあればな…
「カメラ?」
思考が口から溢れていたらしい。隣で一緒に木剣の手入れをしていたレオが不思議そうに聞き返してきた。
「あ、うん。…ええと、一瞬で絵を描く機械、みたいな…?」
「魔法道具か?」
「う、うん…多分」
レオに嘘は吐きたくないけど、この話を続けたら前世の話になってしまう。
「あっ、そういえばさ。この木剣ってどこで売ってるの?」
「ん?ああ、木剣なら街の武具屋で売ってる。でもこれは買ったやつじゃなくて寄付されたやつだな」
「寄付?どこから?」
「孤児院を建ててくれたうちの領主様からだよ。食費とか維持費の他にこうやって木剣とか本とかも寄付してくれてるんだ」
「そうなんだ…。」
ん…?まって、それうちじゃん。
そうだよね!ここ伯爵領だもんね!!
…そういえば、孤児院の慰問とかもあるんだった。引きこもってて、来たことなかったけど…
「シャルル?どうしたんだ、顔色悪いぞ」
「…いや…ちょっと、自己嫌悪…」
生まれを理由に豊かな生活をするなら当然税を納めてくれている領民達へも貴族としての仕事で還元しなきゃいけない。それを忘れていたことが恥ずかしい。
「珍しいな。もしかして、さっきの話で?」
「ううん…ただちょっと、僕も頑張んなきゃなって思っただけ」
「…」
不意にレオの手が伸びてきて、優しい手つきで私の頭を撫でた。
「シャルルは何か頑張りたい理由があるのか?夢とか、目標とか」
「え、夢?うーん……思いつかないや」
このままいったら多分どこかの貴族と結婚するのかな?恋愛結婚が当然の前世の価値観からするとあんまり気が進まないけど、私の見た目を活かせるのはそれだよね。
「ん…そうか。よかったら、考えてみてくれ。
"頑張らなきゃ"で頑張るのも他人のためには必要かもしれないが、シャルルは自分の好きなもののために頑張る方が向いていると思うから」
「…他人のために頑張った方がいいんじゃない?」
ただでさえ引きこもって迷惑かけてたんだから、これ以上我儘言っちゃいけないと思う。
「自分のために頑張って、その途中で他人のためにもなれば十分じゃないか?
シャルルは好きなことをしてる時が1番キラキラしてるし、その方がシャルルの力を発揮できると思う。頑張ってるシャルルをみて前向きになれる人も絶対いるから」
「…」
レオはまっすぐ目を合わせて言い切った。レオの言葉は私に都合が良くて、だけど、確信を持った響きをしていた。
「…そっか。…考えてみることにする。」
やらなきゃいけないことを思い出したからには逃げていられないけど、レオがいうならやらなきゃいけないというより、やりたい理由について考えてみてもいいかもしれない。