身体強化とランニング
そもそも魔法というのは空気中にある魔素と呼ばれるエネルギーを体内にある魔力と結合させ、外界に排出することで意のままに操るという仕組みらしい。そのため体内の魔力が全て魔素と結合されるとそれ以上魔法を使うことができなくなり、いわゆる魔力切れと言う状態に陥る。
魔力の総量や流れ方、魔素との結合の仕方には個人差があり、それによって使える魔法の大きさや種類がかわるのだそうだ。基本的には自分の魔力を手のひらや杖の先に集めて魔素を取り込み、体内を循環させて結合させてから魔法を使う。私は魔力の感知が下手で一点に魔力を集めることができていないらしい。
と、いうのが元の魔法の先生の見立てだ。多分。
専門用語やらやたら長い方程式やらを使って説明された内容を私なりにまとめたものなので合っているかわからない。
「て言うわけなんだけど…」
「なるほどな。うーん…俺の考えだと、魔力を集めるのはできなくても『身体強化』を使う上では問題ないはずだ。」
事情を説明するとレオは少し考えてから私にも『身体強化』はできるだろうと保証してくれた。
「『身体強化』は魔力を外に出さないからな。魔素を取り込んで、体内で循環させるだけ。だから手のひらに魔力を集めなくていいんだ。」
「魔素ってどうやって取り込むの?」
「呼吸に合わせて吸い込むイメージだな。人によって瞑想したり呼吸法変えたり色々あるみたいだけど、俺は走ってみんのが1番だと思う」
そんなわけでレオによる魔法の授業はランニングから始まった。
最初の目標は教会の外周を20周。レオは涼しい顔で走ってるけど、運動不足の私にはかなりきつい…!
「ひ、は、はっ」
足が上がらないし、胸が痛い。
あと7周もあるの?!10周目でレオが休憩を提案してくれた時に休んどけばよかった!!あの時はキツイけど行ける気がしたんだ…。
もはや歩きと変わらない気がする低速でなんとか走り続ける。前世の体育を思い出す。あの時も前半に飛ばしすぎて後半痛い目見たんだっけ…
あと3周、口から心臓が飛び出しそう。頭を上げているのがきつくて俯いてしまう。
あと2周、腕も触れなくなってきた。でもここで諦めたくない。最後まで走り切ってみせたい。
「頑張れ、シャルル!あとちょっとだ!」
あと1周…!!
レオの声に頭を挙げ、最後の一踏ん張りだと大きく息を吸い込む。その瞬間、目の前が急にひらけた気がした。
行ける。下半身から力が湧いて体が軽くなる。息がしやすい。足が上がって、地面を蹴り出して。ぐんっと何かに押されるようにスピードが上がった。
一歩踏み出すごとに景色がぐんぐんかわる。楽しい!速い!!風と一つになった心地に身を任せて走っていると最後の一周はあっという間に終わってしまった。
「シャルル!!すげえな!お疲れ様」
「はー、はー…ありがとう…」
足を止めたらなんだかどっと疲れがきた。レオが渡してくれたコップを受け取って水を飲む。
「ぷは。はー、疲れた…」
「だろうな。でも、最後の方ちゃんと使えてたんじゃないか?」
「え?」
「身体強化。すげえスピードで走ってたぞ」
あ…あれ、身体強化のおかげだったんだ!確かにびっくりするくらい早く走れてたな。
「そっか…僕にもできたんだ。」
レオに言われてじわじわと実感が湧いてくる。
「おめでとう、よく頑張ったな」
「へへ…レオのおかげだよ。」
達成感がすごい。私も魔法が使えるようになったんだ。
思わず頬が緩んでしまう。ランニングはキツかったけどレオに頼んでよかった。
「まあとりあえず、完璧に感覚が掴めるまでしばらくは走り込みだな」
やっぱりちょっと後悔しそうかも。