素直な気持ち
「そういえば、シャルルは俺の顔のどこが好きなんだ?」
「え、全部」
レオに魔法の授業をしてもらうようになってから数日。集中力が切れてきた頃、レオが意外な話を振ってきた。
「肌めっちゃ綺麗だし、まつ毛長いし目大きいし、鼻筋通ってて彫刻みたいだし、唇薄くてかっこいいし、髪も目の色も大好き。笑った時にちょっと目伏せるのも色気あるし、犬歯尖ってるのもチャームポイントだと思う。表情変わりやすいのも魅力的で見てて幸せになる。前髪かきあげる仕草もおでこの形も最高。それに…」
「もういい!十分だ…」
まだあるのに…。せっかくのチャンス、レオの魅力を語り尽くしたかった。
少々の不満を訴えようと視線を向けると、今まで見たことがないくらい赤くなって俯いてるレオがいた。
「かっっ…!」
かわいい!!!!!!!!これがギャップ萌えってやつか…!レオの照れ顔とか超レアすぎる。
「耳赤いね。照れてる?」
「…あれだけいわれりゃ照れるだろ」
珍しい姿を揶揄いたくて聞いてみたら開き直られてしまった。残念。
「それもそっか。ていうか、なんで急にそんな質問してきたの?」
「いや…ちょっと気になっただけだ。」
「ふーん…納得できる答えだった?」
「どうだろうな」
誤魔化されちゃった?
違った、何か考え込んでるみたい。
邪魔するのも気が引けて、形の良い顎に手を当てて黙ってしまったレオの横顔を見つめた。
あれからレオは二人で会う時はフードを外してくれるようになった。お陰でこういう時にこっそりレオの綺麗な顔を鑑賞することができるのである。
たとえそうでなくても、少年らしい丸みを残した美しい線が横顔の輪郭を描き、金色の瞳にまつ毛の影と髪から反射した赤い光が踊っている様子は否応なしに目を奪われてしまうだろう。
少ししてレオは口を開き、重い口調で沈黙を破った。
「…母さんは俺の顔を見て獣みたいだって言ってた。」
「…え」
「大きく裂けた目も、高く伸びた鼻も、牙のような犬歯も、飢えたハイエナにそっくりだと。」
「…」
「母さんは綺麗な人だったんだ。父さんも、俺みたいじゃなかった。こんな顔じゃなかったらって、何度も思った。そしたら、疎まれることも嫌われることももっと少なかったのにって。でも、鏡の中の俺は吐き気がするくらい醜くて。」
「…レオ」
「…シャルルは俺の顔を好きだって言ってくれるけど、俺は好きになれない。」
口から出かけた何かを飲み込むようにレオは再び黙ってしまった。私はレオに何か言葉をかけたかったけど、どれも伝えたいこととは違っていて。
レオに汚い言葉をかけて傷つけた過去の人が許せない。そんな言葉忘れてほしいと言いたい。
だけどそれを言ったらレオが傷ついてきたことを否定してしまう気がして。
わからない。なんて言ったらいいんだろう。
レオに苦しんでほしくない。私の言葉がレオの傷を抉ってしまいそうで、何を言うのも怖い。
空の拳を握りしめる。爪が手のひらに食い込んだ痛みで少し冷静になった。
レオはわざわざ私に話してくれたんだ。私は私の気持ちをちゃんと伝えよう。
「私は…私は、レオの顔が好き。レオの笑顔も、優しい目も好き。面倒見がいいところも、照れるとわかりやすいところも、私に向き合おうとしてくれるところも好き。
だから、レオが悪く言われるのは嫌。それで、レオが嫌じゃなかったらレオはかっこいいっていっぱい言いたい。レオが自分の顔を好きになれなくても、私は好きだっていいたい。
……嫌かな」
ぐ、と唾を飲んで返事を待つ。レオは呆然とした顔をしていたかと思うとみるみるうちに赤くなった。お、怒らせちゃったかな…
金色の瞳があちこちに泳いで何度か唇が開閉して。それから絞り出すような声で答えが返ってきた。
「…い、嫌じゃない…」
っっっやった!!!
許してもらえた!!ちょっとずるい聞き方したかもしれないけど!!
「ありがとう!!」
「ありがとうはこっちのセリフだろ。」
全力の笑顔でお礼を言うと、レオも頬を緩めた。
よかった、ちゃんと伝えられた気がする。
「こんなに好きって言われるの、人生で初めてだ。」
「そうなの?レオはこんなにかっこいいのに。レオの周りの人って口下手なんだね。僕以外」
「はは、シャルルの方が褒め上手なんだろ」
む。私の褒めは貴重なのに。かっこいいなんて特に、超絶美少年な私基準だから滅多に言わない。
「言っとくけどお世辞じゃないからね」
「わかってる。シャルルはそういうの言わないし。」
「ふふん、ならよし。」
「ん…俺もお世辞とかはいわねえけど、シャルルの顔は好きだ」
「ほんと?嬉しい。ありがとう」
……え?!
ちょっと待って、今、私(男装)の顔褒めた?!
女装(?)してる時に言われすぎて一瞬そのまま受け取っちゃったけど、まじか…
予想外の褒め言葉に驚いたけど、正直嬉しすぎる。やっとだよ!
やっと男装した私の美しさを理解できる人が現れた!!