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素顔と魔法

「は、は、レオ、早すぎ…っ」

スリだと叫ぶなり走り出したレオはあっという間に私を引き離してしまった。前世でいうとウサインボルトくらいあるんじゃないか。

なんとかして追いつくと、すでにレオは相手を捕まえて話をつけていたようで片手に私の手提げを持っている。


「レオ!」

呼びかけて小走りで近づこうとすると、不意に強い風が吹いた。

振り返ったレオのフードが外れ、彼の顔が顕になる。


「…え?!?!」


やっっば!!!

「えっすごい、レオめちゃめちゃイケメンじゃん!!かっこいい!!綺麗すぎない?!?!」


透けるような肌と炎のような鮮やかな緋色の髪。長いまつ毛に縁取られた吊り目と黄色よりも黄金色と言い表すべきであろう宝石のような瞳。意志の強そうな凛々しい眉と高い鼻、形の良い唇が絶妙なバランスで位置している。

繊細で精巧な人形のような私とはまた違う迫力のある美しさだ。


レオはすごく驚いた顔をして…一瞬表情を歪めてため息をついた。


「はー……お前はほんと…。…これ、取り返したから」

「あ、ありがとう。ごめん、レオの顔に気を取られて忘れてた」

「それ褒めてんのか?あと忘れんなよ」

「褒めてるに決まってるじゃん!!めっちゃかっこいいよ!!顔のパーツが黄金比っていうか、すごい華やか。」

「…」



レオは顔を顰めて黙ってしまった。本気で褒めてるんだけど、やな気分にさせちゃったかな…

「…っていうか、レオ。足早くない…?全然追いつけなかったんだけど」

「ああ、まあそうだろ。俺『身体強化』得意だし…『身体強化』、知ってるか?」

「流石に知ってるよ、魔法の一種…でしょ?」


実をいうと前世の知識で知ったかぶりしているだけだけど。

今世で魔法があると知った時にワクワクしながら自分で試そうとしたけど、魔力を感じ取るのが下手だとかで私は魔法を使えないらしいのだ。

それがわかってからは興味を失ってしまったので、バフ効果の魔法がこの世界にあるとは知らなかった。


「ん、貴族様が使う派手なやつじゃなくて運動能力がちょっと上がるくらいのやつだけど。」

「ちょっと…?かなりじゃない?いいな、便利そう」

「興味あるなら教えようか」

「えっ!…いや、でも僕魔法使えないって言われてる。魔力をうまく感知できないからって」

「わかんねえけど、派手な魔法が使えなくてもこういうのなら使えるってやついるし…試してみてもいいんじゃないか」


そう言われると俄然やる気が湧いてきた。魔法の先生の話はごちゃごちゃしててわかりにくかったけど、レオは説明が上手だしもしかしたら私にもできるようになるかもしれない。

是非教えて欲しいとお願いすると快く受けてくれた。

ほんと、面倒見がいいよね。今までの分も含めて今度ちゃんとお礼したいな。


「…」

考えてるうちに、沈黙が気まずくなってしまった。

「…あのさ」「シャルル」

「あっ先いいよ」

「いや、遮ったのは俺だ。聞かせてくれ」

タイミングが合わない!でも謝るなら早いほうがいいよね。


「…さっきのこと謝りたくて。一人ではしゃいじゃって、レオの気持ち考えずに余計なこと言っちゃった。ごめんなさい。」

「謝らなくていい。お前が本気で褒めてたのはわかるから。」

「でも…」


レオの手が伸びてきてあやすように私の頭をなでる。

「悪い気はしてないし…変な感じで慣れないだけだ」

「…そっか。」

レオは私の返答に頷いて微笑む。見惚れるくらい綺麗な笑顔だった。


うーん。

同い年のレオに精神年齢で完敗している気がするのは私だけだろうか。

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