手芸屋さんにいこう
「レオー!!」
「シャルル、また迷ったのか」
「失礼な、今日はレオに会いに来たんだよ」
初めて街に出てから1ヶ月。私は3日に一回は家を抜け出し、毎回のように道に迷ってはレオ達のいる孤児院に辿り着いていた。
「シャルルだ!」
「いらっしゃい!」
「今日はお菓子ある〜?」
孤児院の子達ともある程度仲良くなって(餌付けしたともいう)フードを深めに被っていれば顔を見て悲鳴を上げられることも無くなった。
お土産に持ってきたクッキーを一緒に食べながら、子供達の様子を観察する。
何となく思っていたけど、ここの子達はこの世界の基準で言うと不美人が多い。この子達が孤児なのにも関係があるのだろうか。世知辛い世の中だ。
美人であれ不美人であれ外見のレッテルからは逃れられないと言うことをあらためて実感する。
男装をしたことで失礼な態度を取られることも増えた。追い払われたり罵られたり無視されたり、私じゃなかったら泣いてた。
それでもこの姿になったおかげで部屋から出られるようになったし、友達ができた。何より鏡を見た時の幸福感がたまらない。いまさら男装を辞めたいとは思わない。ノー男装ノーライフ。
と言うわけなので、今日こそ街でちゃんとした布と糸を買いたい。一人で買おうとしたら絶対に道に迷うから、レオに案内役を頼んで。
「なぁレオ、今から時間ある?街の案内して欲しいんだけど」
「街?いいぜ。どこに行きたいんだ?」
「手芸屋さん。今の服もほつれてきちゃったからさ」
レオはあっさりと快諾してくれ、おやつを終えると早速教会を出発することになった。
「いいか、絶対にフードを外すなよ」
「うん、わかったよ。大丈夫。レオも今日は袋被ってないんだね?」
お揃いのフード付きマントを示しながら聞くとレオは気まずそうに顔を逸らした。
やっぱり顔を見せてくれる気はないか…
ちょっと残念だけど仕方ない。
あんまり触れられたくなさそうだし、言わないでおこう。ずっと麻袋で隠してるし、今だってフードの裾を引っ張って見えないようにしてるもんね。
「街に出るからな。それより、金はもってんのか?」
「これで足りる?」
誤魔化すように質問してきたレオに金貨を数枚見せる。お母様に勧められた貴族向けの占いの本に金貨を使うものがあったことを理由に強請ったものだ。これで足りなかったらちょっと困る。
レオは呆れたようにため息をついてから「十分すぎるから仕舞え」と言って保証してくれた。
目的の手芸屋さんは教会から少し離れた表通りにあるこじんまりとした店だった。型紙は流石に売っていなかったけれど丈夫な生地や糸が買えたので大満足だ。
「そんなでかい布買ってどうするんだ?」
「ん〜?服作るんだよ、僕に似合うかっこいい服」
「服?!シャルル、自分で服作れんのか?すげえな」
「いや、あんまりすごいのじゃないけど…」
面と向かって褒められるとなんか照れる。
レオ曰く、この世界の平民が着る服は貴族やその使用人仕立てた服の古着が主で、手芸屋さんなんかも自分の服を繕いたい人や刺繍をしたい人向けらしい。通りで大きな布が少ないわけだ。
ちょっと面白かったのが、男性用の服には体型を誤魔化すための綿が詰められていること。貴族の服は新品でパンパンに綿が詰まっているけど平民の手に渡る頃には詰め物がヘタってしまうらしい。
そんな話をしながら教会へ帰ろうと路地を歩いていると曲がり角でどん、と子供にぶつかった。
「あっ、ごめん、怪我してない?」
「ひっ」
失礼な。もう何度目かで見慣れつつある反応をした子供は返事もせずに走り去っていってしまった。あの分なら怪我はしてなさそうだ。
「シャルル、大丈夫か?」
「うん、大丈夫…あれ?」
金貨と布地を入れていた手提げがない。
「…スリだ。追いかけるぞ!!」