お茶会(その後)
初めてのお茶会は大失敗に終わり、私はぶっ倒れて寝込んだ。病弱設定だったはずがいつのまにか現実になっている。
「レオ・スュドはロティの護衛から外すわ。腕は確かだし信用できる子だけど…お茶会みたいな場所だとどうしても、ね…」
そしてこれが寝込んでいる間に決定事項になっていたのがこれだ。もうお布団から出たくない。
そもそも外になんか出なきゃよかった。なんて弱気な心が顔を出す。
私が外に出たせいで彼女は仕事を失って、私がお茶会に連れ出したせいでレオは招待客に酷い言葉を浴びせられた。
「ひぃ!化け物…!!」
「誰かあいつを摘み出せ!」
レオを指差し叫ぶ招待客達。騒ぎの焦点はティースプーンを盗もうとした侍女からいつの間にかレオにすり替わっていて。
あの場に招待されていたのは10〜15歳の子供ばかりだったせいもあるのだろう。
年長者は比較的平静を保っていたが、それでもお茶会という場での急な捕物と叫び声に影響されて皆混乱していたし、何が起きたのかわからないまま他の人に同調して叫んでいる人もいた。
それでもやるせなかった。あの時私は何もできなかった。レオがあんなふうに言われる理由なんてないのに、庇うこともできなかった。レオを連れ出した責任すら果たせなかった。
「ごめんなさい…」
悪いのは自分なのにじんわり涙まで滲んできて。情けなすぎる…
布団を被って体を縮めて。レオに謝りに行かなきゃと思うのに、合わせる顔がないという思いばかりが募って動けない。
コンコンっ。不意にノックの音が部屋に響く。
「はっ、はい!」
「シャルル?入っていいか?」
レオだ。
「…うん」
ガチャ。
扉が開く音がして、足音が近づいてくる。レオに謝らなきゃ。
「っレオ!…ご、ごめんなさい…」
「?何を謝ってるんだ?」
「…お茶会でのこと。私のせいであの人はおかしくなって、あんな騒ぎになって。…レオがあんなこと言われた時も何もできなかった、しなかった」
レオの顔が見られない。怒っているだろうか。
「……。シャルルのせいじゃない。俺が仮面に気をつけてなかったのが悪いし、シャルルはちゃんと誤解を解こうとしてくれたろ。私の騎士だって言ってくれてた」
「レオは悪くない!!…それに、僕が言っても誰も止められなくて。」
恐慌状態で誰も私の話なんか聞いていなかった。
「…だから僕のせいで、っ」
目の前に急に金色が迫る。
「シャルルのせいじゃない」
レオの目だと遅れて気がついたそれには、私を責める色は一切なかった。
「…」
「わかってるだろ、シャルルも」
「…なんで…」
「あの侍女がシャルルのせいでおかしくなったっていうんなら、客がパニックになったのは俺のせいっていうのと同じことになる。」
あ…
「ちが、っ違う。ごめんなさい」
ちがう、そんなわけない。レオのせいじゃない。
「わかってる。シャルルはそんな風に思ってない。」
レオの手が私の手に重なる。その温度ときっぱりとした口調に少し面食らってしまう。
「…これ、間違ってるなら違うって言って欲しいんだけど。シャルルは怒ってくれてるんじゃないか」
「え…?」
「お茶会をぶち壊したあの侍女にも俺を罵倒した客にも。…俺も怒ってるけど。
シャルルはすげぇ怒ってる時、まず自分のせいにしようとしてる気がする。そうでなくても自分が悪いところを探すとか。」
「…」
…怒ってはいる。たしかに、レオの言う通りだ。
だけど私にも悪いところがあって、…だから…。
「もし俺の考えがあってんならだけど、シャルルは怒っていいと思う。シャルルがマックス様に言ってたことはシャルル自身にも当てはまるし、なんなら口に出してもいいと思うぜ。相手の目の前じゃないんだし、ここには俺しかいない」
ああ、レオには敵わないな。自分でも気づかなかった内心を言い当てられて、その上反論のしようもない諭し方をされて。
でも全部私の気持ちに寄り添って、私のために言ってくれている言葉だ。
「……僕、怒ってる。と、思う」
「ああ」
「怒ってる。レオがあんな風に言われるのも、なんかレオのせいみたいになってるのも絶対おかしい。誰も僕の話聞いてくれないし、シャルロットの時レオと一緒にいられなくなるのも納得してない。…みんな、やだ。…ああ言うこと言う人嫌い」
嫌いだ。…嫌い、大嫌い。
口に出したら次から次へと不満が出てきて、めちゃめちゃ泣いちゃったりして。
レオはずっと私の手を握ったまま聞いてくれていた。
その上、泣き止んだ私に1番に言うのが「怒ってくれて嬉しい」なんだからレオの人間性には一生勝てる気がしない。
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