お茶会(後編)
ルミエール王国の公爵家は全部で5つ。その中でもダンマルタン公爵家は特に権勢の強い家で、王族からの降嫁や正妃として王家に入った例も少なくない。また公爵家では火属性魔法を継承していて、鮮やかな赤髪が特徴だ。
「初めまして、ロベール伯爵令嬢。
私はダンマルタン家の長女、アンジェリーヌよ。シャルロットと呼んでもいいかしら?」
アンジェリーヌ様もその類に漏れず燃えるような赤髪で、意志の強そうな眉と猫のような吊り目の迫力のある美少女だった。
「もちろんです、ダンマルタン公爵令嬢。本日はお越しくださりありがとうございます」
「アンジェリーヌでいいわ。お招きありがとう」
幸いなことにアンジェリーヌ様は気さくな方で、私の姿を見ても平静を保ったまま話しかけてくださった。
普通に会話できるのってこんなにありがたいものなんだね…
「苦労しているわね。貴女ほどではないけれど、私も最初は困ったわ。」
さっきの公爵令息がジリジリこっち近づいてきてるのを見てうっかりため息を漏らしてしまった私に、アンジェリーヌ様が同情の言葉をかけてくださる。
「失礼のないようにお断りしたいのですが…」
「視線を合わせないのが吉よ。爵位が上の相手でも貴女ほどの美人なら暗黙の了解で許されるわ」
えっそんなのあるの?つくづく顔面至上主義だなこの世界…!
「美人の振る舞い方」みたいなのはマナー講座の中で習わなかったが不細工とされている人のマナーはめちゃめちゃ多かった。家格が上でも話しかけちゃいけないとかダンスには参加しないとか他の人の顔を見てはいけないとか。わけがわからん。
公の場では顔を隠すようにというルールもあるらしく、マックス様もレオも私的な場以外では大体仮面をつけている。今日のレオは暗い赤色の仮面だ。かっこいいけどレオの顔が見れないのは勿体無いと思う。
そんなこんなで少々話が脱線してしまったが、アンジェリーヌ様がいらしたことで無事(?)お茶会が始まる。
最初様子がおかしかった子達もお茶を飲んだりお菓子を食べるうちにそれなりに落ち着いてきて、あんまり目を合わせなければちょっとした話くらいならできるようになった。
「そういえば、第一王子様がいらしているとか」
「病弱だとお聞きしましたが…」
令嬢の間で流行っている占いだとか最近王都で有名な劇団の話だとかをしていたが、令嬢が不意にマックス様を話題に出す。
「最近は恙無くお過ごしのようです。」
「やはり第二王子様のように華やかなご容貌でいらっしゃるの?」
「第二王子様のお顔を拝見したことはございませんが、素敵な方ですよ」
「まぁ!シャルロット様がそう仰るほどなんて…!」
マックス様は私同様他の貴族と顔を合わせることがなかったらしく、ご令嬢たちも興味津々だ。侍女にお茶を注いでもらいながら、どのラインまで話していいものか思案する。植物が好きとかは勝手に言っちゃってもいいのかな?
「そこの貴女」
そんなふうに思考を巡らせていると不意にアンジェリーヌ様が鋭い声をあげる。
「アンジェリーヌ様…?」
「貴女よ。紅茶を淹れた時袖に何を隠したの?」
私のすぐそばの侍女に鋭い視線を向ける。
「ち、違います!私はただ、シャルロット様のお慈悲を賜りたく…!やめて!!私に触らないで!取らないで…っ!」
え、ど、どういうこと?
困惑している間にレオが侍女を取り押さえ、袖を検める。中には私がついさっきまで使っていたティースプーンが隠されてた。
「やめてください!!!それはシャルロット様が口付けられたスプーンなんです!返して!!」
うぉう…。そういうことか。
「レオ、彼女を連れて行ってくれる?皆様、お騒がせしてごめんなさい」
必死の形相でティースプーンを取り返そうとする彼女はお茶会前に乱心して連れて行かれた侍女だった。
「シャルロット様!!!!!どうして!!」
叫んだ彼女が手足をがむしゃらに振り回し、警備の騎士に引き渡そうとしていたレオの仮面を弾く。
「っ、」
仮面が落ちた瞬間、招待客たちの口から悲鳴が漏れた。
会場は侍女の叫び声と令嬢の悲鳴に触発されて軽く恐慌状態に陥る。
かくいう私もちょっと正気を失いたいくらいだ。ホストとしてなんとか怯える招待客を宥め、近くの使用人にお母様へのヘルプ要請を届けてもらって。
それでも騒動が収束したのは30分ほど後になってからだった。




