お茶会(前編)
「アルトワ伯爵家が長子、カミーユと申します。シャルロット嬢、貴女の美しさに一目で心を射抜かれました。どうか私と結婚してくださいませんか?」
「…初めまして、アルトワ伯爵令息。そのように言っていただけて光栄ですが、よろしければ父を通してくださいませんか?」
「もちろんですシャルロット嬢!お義父さまへの挨拶は欠かせませんからね!」
えっえっなんで挨拶になるの?!
これお母様に言われた断りの文なんだけど…。というかそもそも出会い頭の求婚自体基本ありえないって教わったよ。
あっ顔が近い。距離が近い。レオがさりげなく間に入ってくれてるけどこの人まったく気にしないな?!
「君、辞めたまえ。シャルロット嬢が困っているだろう?大体君程度では彼女に見合わない。大人しく身を引くがいい」
「っ、サヴォイア公爵令息…!」
「シャルロット嬢、よろしければ貴女の庭園を見せてくれるかい?君と二人で話がしたいんだ」
助け舟かと思ったらとんだ裏切りだった。
「申し訳ありません、他の方にも挨拶がありますので…」
「まだ来ていない家もある、後でも構わないさ」
構いますすみません手を取らないでもらっていいですか。
「お待たせするわけには行きませんから。また後ほど…」
すすすっと自然に手を抜こうとしたけどがっしり掴まれてしまっている。ええん!このままだと連行されちゃう。
「すみません、手を…」
「ああ、エスコートは任せてくれ」
手を離して欲しかったんだよ!貴族って婉曲的な表現で話すものじゃないの?なんかみんな本当遠慮ないんだけど。
肉食獣の群れに放り込まれたお肉の気持ちです。
「失礼ですが、お手をお離しください。」
レオ!!!!!!ありがとう…!!
「私はいまシャルロット嬢と話している。でしゃばらないでくれ」
話してないよ全然言葉通じてないもん!
だめだツッコミが追いつかない。
「申し訳ありません。私、手を握られますと緊張してしまいますの。離してくださいませんか?」
『身体強化』を使って少しばかり強引に手を離す。間に入ってくれて助かったけど、私が強めに線引かなきゃレオの立場が悪くなりそうだ。
これだけ皆遠慮がないならこっちも相応の対応をしていいだろう。
また後ほどお話ししましょうねとにっこり微笑んで相手を黙らせてから他の招待客に挨拶に行く。
誰も彼もお母様に習ったマナー講座から逸脱した振る舞いをするせいで全く練習の成果を活かせない。代わりに威圧するくらいの気持ちで笑顔を振り撒くと大抵の相手は真っ赤になって固まった。
対話を諦めればこの方法も役に立つかもしれない。
そんなふうに挨拶回りをしているとふと違和感を覚える。招待客に対して席が一つ多い…?
そういえばまだ来ていない方がいらっしゃるんだっけ。
席次を見るにダンマルタン公爵家のアンジェリーヌ様だ。招待した中でも一、二を争う良家のお嬢様。
お茶会を正式に始めるのは彼女の到着を待つべきだろう。それまでに様子のおかしくない貴族令嬢(もしくは令息)を見つけて安地を確保できるだろうか。
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