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シャルル(マクシミリアン視点)



「いみごってなぁに?」

幼い頃、大人たちが私を呼ぶ名前の意味がわからずお母様に…アンリエット様に尋ねたことがある。返事こそはっきりとは思い出せないけれど、彼女の苦しげな表情は今でもありありと思い出すことができる。


忌子、怪物王子、暴君リュシアンの生まれ変わり…私を表す数々の名前。

その意味を知らずに生きられたらどんなに幸せだっただろうか。こんな姿に生まれなかったら、どんなに幸せだっただろうか。


骸骨のような小さい顎、ぎょろぎょろとひかる裂けた目。無駄に凹凸の大きい顔はとても人間のものとは思えない。吐き気がするほど醜悪な私の顔は、王宮の回廊から押しやられ、物置で埃をかぶる肖像画の曽祖父に瓜二つだった。


恐れるのも無理はないだろう。

ただでさえ化け物のような容貌だ。その上いつ曽祖父のように狂い、人々を虐げるかもわからない。


王は私を見放した。使用人は雇う側から辞めていった。弟は初めて会った日に恐怖のあまり失神し、それ以降顔を見たこともない。

僅かに残って私の世話をしてくれる使用人たちの目にもありありと恐怖が見てとれた。


彼らにとって私は猛獣や魔物の類なのだろう。

残った使用人は他の者たちのように私を遠ざける代わりにどうにかして飼い慣らそうと試みた。

私は彼らの言葉に従い、望むままに振る舞った。無害であると分かれば親しくしてくれるのではないかと期待していたから。


けれどそうするうちに彼らの恐怖は侮りに変わり、目の前で私を悪様に罵ったり当てつけたりするようになった。

それも仕方ないだろう。

私を恐れなくなったところで醜いという事実は変わらない。誰かと親しくなれるなんて分不相応の夢だった。


諦めがついた私は人の目を避けるようになり、病弱だと偽って離宮にから出なくなった。アンリエット様は心配してくださったが、私が表に出るほど彼女の立場は悪くなる。お母様と呼ばなくなったのも確かこの頃からだった。


どうして私はこんな姿に生まれてしまったんだろう。どうして私は蔑まれるのだろう。どうして私は一人なのだろう。どうして私は、…飲み込んだ言葉ばかりが体の中で膨れあがり、いつ爆発するかもわからない。


使用人たちは気づいていない。私を愚鈍で醜いだけの無害な子供だと思っている。そう、それでいいんだ。私は恐れられるより侮られることを選んだのだから。彼らはこんな私の下から離れずにいてくれたのだから。


「とんだ貧乏くじを引かされましたな。一日中こんな醜い顔を見なくていけないとは」

「賃金がこんなに高くなかったらとっくに辞めてますよ。こいつの顔を見るだけで吐き気がする。」

「全くだ。にしても、王宮はこんな化け物に無駄金を費やしてどうするつもりなんだか」


向けられた鋭い言葉たちは私の中に積もり続け、一人の夜でさえ彼らの声がまとわりついて眠れない。

「…こんな姿に産んでしまってごめんなさい」

そうだ、あの時。私の質問を聞いた彼女はひどく悲しい声で謝っていた。


そうして私は曽祖父が悪政を敷いた理由が理解できるようになってしまった。

醜く生まれたからこそ内面だけは高潔であろうと思っていたのに、泥沼に嵌るように私の思考は濁っていって。


もしもシャルルに会えなかったら、きっと私は曽祖父のようになっていただろう。誰とも関わることなく、自分の容姿を嫌って、後ろめたさを抱えたまま、世界のことを恨んでいただろう。


シャルルは私の光だった。私を縛る呪いを解いて、私の世界に色を与えてくれた。

未練がましく見つめるだけだった太陽の元に連れ出してくれた。

「友達になろう」も「好き」も「怒っていい」も「優しい」もずっとずっと私が欲しかった言葉だった。全部全部、私には手に入らないと諦めていたのに。


シャルルの言葉には不思議な説得力があって、私はこの言葉を受け取っていいんだと素直に思えた。いつからだろうか。シャルルと一緒の時間が落ち着く時間から幸せな時間になったのは。シャルルの笑顔が世界で1番綺麗だと思うようになったのは。


気がついた時には私の世界の太陽はシャルルになっていたんだ。

だから、シャルルが食堂の綺麗な女の子と話している時のをみた時は天地がひっくり返るような心地だった。


シャルルは私の顔を好きだと言ってくれたから、容姿のことは気にしていなかった。

だけどシャルルは男の子で、将来結婚するのはきっとかわいい女の子だ。

花の妖精に選ばれたというあの食堂の子みたいな。


私は情けないことに大人になったシャルルの隣に知らない女の子がいる光景が受け入れられなかった。シャルルの隣は私であって欲しかった。シャルルが誰かに恋情を向ける日が来るのなら、その相手は私が良かった。


「女の子の、姿じゃないと…叶わないことがあって…」

「叶わないことって…」

「……っ、…あの、…花の妖精の子、みたいに…なりたくて…」

「なるほど!とても可愛らしい衣装ですもんね」


だから、嘘をついてしまった。

私が本当に女性になりたい理由は衣装などではない。この叶わぬ想いを、道ならぬ恋を成就させたいと思ってしまったからなのだ。

だけどどうしてシャルロット嬢に言えるだろうか。貴方の弟のシャルルに振り向いてもらいたいから、などと。


分不相応な想いだとわかっている。シャルルは愚鈍王子の私なんかにはもったいない人だ。そうわかっているのに。それでもこの思いを諦められない私は、シャルルに選ばれるためならきっとどんなことでもできてしまうのだろう。

ボーイズラブタグをつけるべきか迷っています

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