押し花図鑑
「今日はお天気に恵まれてよかったですね」
「…」
「紅茶の味はいかがですか?」
「…」
「…クッキーをもう一枚召し上がりませんか?」
「…」
レオ助けて。この王子様、首を縦にしか振らない!!!しかも一言も発さない!!
縋る思いでレオに視線を向けると、がんばれと口パクで返された。
えーん!!沈黙がきついよ!!
話し相手って…どうやるんだっけ…
そうして遠い目になりながらラジオのように話続けて終わったお茶会。
の、翌日。
「その本は?」
「押し花図鑑!ジェスチャーだけで会話できるような話題が必要だと思って」
図書室から持ち出した図鑑を見せながらレオに作戦を説明する。
「話すのが苦手でも頷いたりはしてくれるでしょ?僕と話すこと自体は嫌じゃないと思うんだよね」
「ああ、近寄るなって雰囲気じゃないな。」
最初はどうなることかと思ったが、纏う雰囲気が剣呑じゃないことに気がついてからは大分緊張がほぐれた。
「多分同年代との会話に慣れてないんじゃないかな」
こればっかりは経験しないと慣れないものだと思う。13年ぶりの友達を作ろうとした時の私も変な挙動してたし。
繕ったり背伸びせずにそのまま話せる環境づくりが大事だよね。
コンコン。
「失礼いたします。ごきげんよう、マクシミリアン様」
「…」
マクシミリアン様…長いので脳内では王子様と呼ばせてもらおう。王子様は昨日と同じように整えられたティーテーブルの前に座っていた。
「今日は押し花の図鑑を持って参りましたの。よろしければ一緒に読んでくださいませんか?」
「…」
こく。図鑑を見た王子様はいつものように頷いてくれた。
椅子を近づけてくれたレオにお礼を言って王子様の隣に座る。
「マクシミリアン様はお花は好きですか?」
「…」
「よかった、今日はどんな花がお好きなのか聞きたくて図鑑を持ってきたんです」
王子様に見えるように図鑑を開いてパラパラとめくっていく。図鑑には押し花と一緒に名前と花言葉の書いてある。貴族は手紙に花を添えたりする機会も多いからこう言う図鑑が必要なんだろうな。
「マクシミリアン様はこのページにある花ではどの花が1番お好きですか?」
ひまわりや百合、朝顔などのちょうど今の時期に咲いている花を集めたページを開いて見せる。
「…」
王子様から返事は返ってこない…。
うーん…いや、何を言っているかは伝わっている、はず…。返事を待ってみよう。なんか考え込んでいる様子にも見えるし。
図鑑を見ているふりをしながら王子様に視線を向ける。
仮面で顔のほとんどが隠れているが王子様も相当整った顔立ちだと思う。薄めの唇ときめ細かい肌に、すっきりとした輪郭。白い手袋で隠さた手指の形も綺麗だ。今世美形との遭遇率高いな。私が超絶美少女だから?
そんなことを考えていると王子様の指が動く。
「ひまわりですか?」
細い指先はひまわりの花びらを指して止まった。
「綺麗ですよね、黄色が鮮やかで。私も好きです」
夏の風物詩って感じ。
「……いつも太陽の方を向いてるんだ」
「…!?!…ひまわりがですか?」
えっ?!しゃべった!!!!しゃべった!!!!いましゃべった!!!
ひまわり好きなんだ!当たってた!!!
達成感がすごい!嬉しいなこれ!
静かだけどよく通って耳に心地いい声だ。
褒めたいけどあんまり触れすぎるのも良くないかな?
太陽の方向いてるってひまわりのことであってる?話の流れ的に…
「…蕾が太陽に当たって成長するために、太陽を追いかけてる」
王子様は頷いてそう続けた。
「そうなんですね…!知りませんでした…。
あ、もしかして花言葉の「貴方だけを見つめる」って言うのもそれからなのでしょうか」
「…」
こくり。
「やっぱり!面白いですね。」
「…」
「マクシミリアン様は植物が好きなんですか?すごく詳しいですけど…」
「…」
やば、興奮して食いつき過ぎた…。その日は無口モードに戻ってしまって王子様の発言はあの二つだけだった。
でも貴重な情報は手に入った。王子様は植物が結構好きらしい。加えて、これは反省点だがあんまり沢山喋りかけるより質問を投げかけてからゆっくり待つのが良さそうだ。
明日からシャルルも授業を王子様と一緒に受けることになるし、今日の収穫を踏まえて仲良くなれるといいな。