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花祭り(一日目)

「シャルロット様〜!!!」

「妖精様〜っ!!」

わー、すっごい…!

前世ほど日常での娯楽が多くはないからか、花祭りの熱気は比にならない程だった。道を埋め尽くす程に人出があるし歓声の音量もすごい。


声のした方にした方に手を振ると悲鳴が上がる。この小一時間で黄色い声(たまに野太い)にも慣れてしまった。領民からの反応は上々、パレードはまだまだ続くが、大きなミスをしなければお披露目も成功と言っていいだろう。


大通りは家々が花で飾りつけられ、パレードが通ると2階から花びらが撒かれる。このまま伯爵邸から街の外に続くメインストリートを練り歩き、各所にある広場で住民から感謝の花を受け取る『花捧げ』を行う。パレードは1日がかりだ。


「しゃ、シャルロット様、すっごく綺麗です!」

「ふふ、ありがとう。貴女も綺麗ね。薔薇がよく似合っているわ」

広場で行われる花捧げは握手会みたいな感じ。花の妖精(フェ・デ・フルール)の前に花を持った住民の列ができ、二言三言会話をした後春の精霊への感謝の言葉と一緒に花を受け取るだけ。伯爵令嬢モードなので話し方はちょっと気をつけてる…


「…」

最初の広場での花捧げも終わりに近づいてきた頃、フードを被った小柄な少年が花を片手に私の前に並んだ。隣の護衛が顔を強張らせる。

大丈夫、という意味を込めて少し微笑んで見せると少年はおずおずと花を差し出した。


「…これ」

「素敵なお花!ありがとう」

「…」

「来年の貴方にも素敵な春が訪れますように」

袖口に隠し持っていたお菓子をそっと手に握らせる。これぞ袖の下、なんちゃって。

内緒ねという意味を込めてしーっとしてみせると少年は赤くなって頷いた。


顔がよく見えなかったけど多分あの子、孤児院の子じゃないかな?花祭りに行きたいけど街の人を怖がらせたくないからフードを被って見て回るって言ってたから。


レオは来ないだろうなぁ…明日の練習があるだろうし、花の妖精(フェ・デ・フルール)やるってことも言ってないし。

あれ?ってことはさっきの子、私がシャルルってわかってなかったじゃん。

あっ急に恥ずかしくなってきた!身内対応のつもりだったけど向こうからしたら全然知らない人だ!!!!


男装が板につきすぎて女装していることを忘れてしまう…どうせどっちの姿でも悲鳴あげられるし。


それからいくつかの広場を回って、合間に他の花の妖精(フェ・デ・フルール)の子たちと持ってきたお菓子を分けっこしたりして。あっという間に夕方だ。

メインストリートを抜けた私たちは街はずれの教会に向かうことになる。もともと花送りの儀式が行われていた祭場の跡地に建てられた教会に住民から預かった花を奉納するのだ。


「はぁ、はぁ…」

「大丈夫?少し持つわね」

「え、あ、いいんですか…?あ、ありがとうございます…」

一日中歩いてからの小山の上の教会まで坂道を登るのだ。子供には辛いだろう。

山盛りになった花籠を引き受け、『身体強化』を使いながら登っていく。


「綺麗…」

先を歩いていた子がほぅ、と息をつく。坂道を登り終えた私たちの目の前には重々しい石造りの神殿があった。いや、ただしくは神殿跡地だ。

草生し雨風に曝されて風化したその建造物は夕日に照らされて黄金に染まり、ありし日の荘厳な姿を想像させる。


花の奉納のためにはすぐ隣に建てられた教会に入らなくてはいけない。

けれど私たちは皆その場に縫い止められたかのように立ち止まって、崩れかけた石塔の隙間から燃える太陽が沈んでいくのを見つめていた。


はるか昔の人たちがどうしてこの地を祭場としたのかわかる気がする。

太陽の最後の一片が山の端に消えていったのを見届けて、私たちはやっと教会へ足を進める。


その後は無事に花を納め、お祈りをして下山した。

街中歩き回ってへとへとだし、明日も一日忙しい。今夜は早く寝ることにしよう。



…そういえば山の教会にあった春の精霊の銅像、祭壇の神官様にやたらと似てたんだけどたまたまだよね???

ポイントを入れてくださった方、本当に本当にありがとうございます!嬉しいです!

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