お母様とお父様とお話ししよう
初めて誘拐されたのは5歳の頃だった。初めて家庭教師としてつけてもらった先生で、お忍びで街の視察をしましょうと誘われた。その日は珍しく護衛の騎士がいなくて、二人だけでのお出かけだった。先生はレオや男装した時の私ほどじゃないけど綺麗な人で、いつも自信がなさそうだった。
先生は優しい人で、王立学園で教鞭を取れるくらい優秀な人だったらしい。…私を誘拐したことでその未来も閉ざされてしまったけれど。
彼は私を天使だと言っていた。神が私に遣わせてくださった救いです、と。
幸い、誘拐が発覚したのはすぐで私は騎士によって無事に家に帰された。お母様とお父様はたいそう怒っていて、次の先生はこの世界でいう美形な先生だった。
その先生もダメだった。その次の先生は女の先生だった。学園を卒業してすぐに結婚する貴族女性が一般的な中で珍しく家庭教師として一人で生計を立てている人だった。でもダメだった。
先生の作ってくれた手作りのクッキーを食べて、気がついたら先生の家にいた。
騎士たちが私を迎えにきた時、先生は私のシャーロットを返して!と叫んでいた。
そんなことが何度か続く他にも寝ている間に枕元に花束や手紙が置かれたり、私が使ったものが消えたりして、私は外に出ることをやめた。
「守れなくてごめんね」
扉越しにお父様とお母様何度も謝っていた。二人とも何も悪くない。私のために何度も使用人を入れ替えたり家庭教師の先生を探し回ってくれた。
誰が悪かったのだろう。
私はその答えを出さないために一人になった。
「失礼します、お父様、お母様。」
「お入りなさい」
両親の部屋の前に立ち、ノックをするとすぐに返事が返ってきた。
扉を開けてスカートをつまみ、礼をする。
「お久しぶりです、お父様、お母様。」
「ロティ…!」
「顔が見せてくれてありがとう」
お母様が感極まった声をあげて私を抱きしめ、お父様がそっと頭を撫でた。
背中に回されたお母様の温度にほっとして、少し気恥ずかしくなる。
「…ご心配をおかけしました。」
「いいのよ、貴女が元気でいてくれてよかったわ」
3年ぶりの二人は変わらない優しさで迎えてくれた。私の好きな紅茶とお菓子を用意して、私が自分の意思でここに来るのを待っていてくれた。私はこの優しさに報いることができるかな。
「お父様、お母様。私は淑女教育を受けたいと思います。遅くなってしまってごめんなさい。」
私がこれまで遅れてしまった分を取り戻すために頑張ること、お茶会などの交流の場にも出席することを伝えると二人は心配そうな表情をした。
「無理していない?」
「ロティ、将来のことなら心配しなくていいんだぞ」
私が引きこもった最後のきっかけが家庭教師の先生の乱心だったからか、二人とも私が淑女教育を受けることには乗り気じゃなさそうだった。
正直、私も自信がない。だけどここに来る途中で一ついい案が浮かんでいたのだ。
自分の好きなことをしながら他人のためにも頑張れるいい案が。
「お父様、お母様。淑女教育を受けるために一つお願いがあるのです。ご説明いたしますので、一緒に私の部屋に来てくださいませんか?」




