お父様とお母様に会いに行こう
「うーん。やっぱりドレスで行った方がいいかな…」
鏡の前でズボンとドレスとを並べてため息をつく。
街から帰ってすぐにお母様とお父様宛に「明日、話したいことがあります」と手紙を書いて扉越しに次女に届けてもらった。まではいいものの、3年ぶりに二人に会うのに相応しい装いに悩んでいた。
今回二人に伝えたいのはこれから伯爵令嬢としての責務を果たしたい、今からでも遅れていた分ちゃんと学びたいと言う内容だ。だからそういう意味でいえば令嬢らしい装いをするべきだろう。
だけど同時に、自分の気持ちを素直に伝えてみたいと言う思いもあった。今まで私は両親に対して多くのことを隠してきたし、その結果がこの3年間だったともいえる。自分の1番好きな格好で会いに行って話をしたい。
「…私って認識してもらえるかな???」
ここにきて新たな問題が急浮上した。顔立ちは変わらないから元の私の姿を知っていれば男装しているだけだとわかってもらえそうだけど、もし万が一知らない男の子が突然現れて屋敷内を歩いてるってなったら騎士に突き出されかねない。
「うん、女装していこう」
両親と話す前からそんな大騒動になったら困る。私はドレスに腕を通した。
3年前に仕立ててもらった若草色の艶やかなAラインドレス。袖口と裾には真っ白なフリルがついていて、控えめな刺繍もあしらわれている。当時は体にぴったりなサイズだったけれど今着ると結構窮屈だ。
それでもモデルの良さはサイズのチグハグ感を誤魔化すに足るようで、鏡に映る私は春の妖精のようだった。さすが私。
「あ、髪の毛どうにかしなきゃ」
男装する時にバッサリ切ってしまった髪の毛は女装する上で最大の難点だった。かつらを作ることも考えたけれど、私の技術力では自然に見えるものは作れなそうだったので代替案としてつけ毛を作ることにした。
布で大きめのヘアバンドを作り、ヘアバンドに毛束をまとめたものを装着する。あとは後ろの毛でヘアバンドをうまく隠せばぱっと見は一つ結びのように見えるだろう。ふわふわの巻き毛だからできることだ。
「準備はできた。…あとは、会いに行くだけ」
会いに行くだけ。このドアを開けるだけ。一歩踏み出すだけ。それだけなのに、体がすくんで動けない。
「大丈夫。…何もないんだから。」
大きく息を吸い込む。魔素が体に回って、力が湧く。『身体強化』の意外な効用だ。
「会いにいこう、お母様とお父様に」