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第八章 地道に聞き込み調査を 3

 メレディス医師からの聞き取りが終わってすぐ、フィールディング教授とヒギンズ助教授とヘンリー・エイキンが揃ってやってきた。


「やあアンディ、お招きありがとう! そちらのお美しいお嬢さんが、あなたがタメシスから招聘したというあの高名な諮問魔術師どのなのかい?」


 やたらと明るい声で言いながら入ってきたのは、つるっとしたむき卵みたいな顔をした大柄な金髪の男だった。

 真っ白いレースのクラバットと碧い石を嵌めたカフスボタン。

 銀の繻子のウェストコートに光沢のある青いジャケットを重ね、灰色の半ズボンに白いストッキング、ピカピカ光る黒いエナメルの靴と、午後のお茶に来ただけなのに、まるで宮廷の正餐会にでも呼ばれたみたいにめかしこんでいる。

 年頃は四十半ばほどか。

 親子ほども齢の離れてみえるソロー教授に対してやたらとなれなれしい。


 ちっちゃい土矮人(ノーム)みたいなソロー教授はちっとも嬉しくなさそうに笑いながら応えた。

「来てくれて嬉しいよ若き学寮長どの。お察しのとおり、こちらがセルカークの・ミス・エレン・ディグビーだ。――ミス・エレン、彼がジョナサン・フィールディング教授。われらがスペリオル学寮の若き新学長どのだ」

「初めまして学寮長どの。ご紹介に預かりましたディグビーです。タメシス警視庁任命の諮問魔術師を務めております」

 名乗りながら右手を広げて、身分の証である、薬指に嵌めた銀製の印章指輪を示す。

 四角い台に諮問魔術師(コンサルテイティヴ・マギステル)を表す「CM」の二字とエレン・ディグビーのフルネームが刻印されている。

 重たげな銀の指輪の煌めきを目にするなり、フィールディング教授がごく一瞬だけ怯んだような表情を浮かべた。



 ――学寮長の証たる《茶色精霊の契約指輪》を譲渡されていないことを、やはり気に病んでいらっしゃるようね。



 が、そこはさすがに理性の勝る大学人のこと、新学寮長はすぐに動揺をひっこめ、芝居がかった仕草でエレンの右手をとって唇をよせてきた。

「初めましてミス・ディグビー。あなたのようにお美しい方にお会いできて光栄です」

「ああ、それからジョナサン」と、唇が手の甲に触れる寸前にソロー教授が声をかける。「隣がミスター・トリスタン・ディグビー。ミス・エレンのお兄さんで、新婚の牧師さんだよ」

「ああ、そうですか。初めましてミスター」

 どうやら美青年には関心はないらしいフィールディング教授はとてもそっけなく応じ、そこでハッと思い出したように背後に影法師みたいに控えるひょろっとした痩せ男を振り返った。

 晩夏とはいえ夏だと言うのに喪服みたいに真っ黒なジャケットとベストとズボンを合わせて、糊の効きすぎた白麻のカラーで長い首をぐるぐる巻きにしている。

 湿っぽい感じの灰色の髪とごつごつと骨ばった顔。

 深く落ちくぼんだ眼窩の奥で薄青の目がきょどきょどと落ち着かなそうに動いている。


「そうだ、ミス・エレン。こっちも紹介しておきましょう。彼はジョージ・ヒキンズ。わがスペリオル学寮に属する法学の助教授だ」

「ご紹介ありがとうございます。初めましてミスター・ヒギンズ。エレン・ディグビーと申します」

「は、初めまして」

 痩せ男のヒギンズ助教授は辛うじてそれだけ言い、耳たぶまで真っ赤にして目を逸らしてしまった。

 ソロー教授が好ましそうに声を立てて笑う。「しっかりしなさいジョージ! ミス・エレンもわがマチルダも野に放たれた虎じゃない。君のことをとって食いやしないさ」


「そうそう。彼女らはきちんと言葉の通じる人間だよ」と、ヒギンズ助教授の後ろから、今日は少しだけましなシャツを着たヘンリー・エイキンが口を挟み、エレンとトリスタンを見やって人懐っこい笑顔を向けてくる。

「お久しぶりーーでもありませんね、麗しのミスター&ミス・ディグビーズ。僕の自己紹介は必要ありませんよね?」

「勿論ですともミスター・エイキン」と、トリスタンが嬉しそうに応える。

「モリソニアンでの調べ物は首尾よく進んでいますか?」

「ほほう、こちらのお嬢さんは大図書館で調べ物を?」と、フィールディングが興味深そうな声をあげる。「何を調べておいでで?」

「ええまあ、いろいろと」と、エレンは曖昧に応えた。

 こちらが知っている諸々の情報はみな、個別の聞き込みを終えるまでは秘密にしておきたいのだ。

 そんな空気を察したのか、

「ねえ皆さん、早速まずはお茶にしません?」

 と、マチルダが明るい声を挟んでくれた。

「そうだね」と、ソロー教授も頷き、客人たちを促して食堂へ向かっていった。


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