第一章 好ましからざる同行者 2
――黙って立っていれば悪くない見た目なのにねえ。スージーもこの男の何処が良かったのかしら?
最近結婚したばかりの妊娠中の新妻をおいて妹のカトルフォード行きに同行を強弁してきた生真面目な次兄の姿を、エレンは他人を見る目でつくづくと眺めた。
家にいるときには仲良しの長兄と違って喧嘩ばかりしていた次兄だが、こうしてしばらく離れてみると、見た目は本当にとても良いのだということが認識される。
――完全なる他人の目で俯瞰するなら、ディグビー兄妹はどちらも非常に美しかったが、全く似てはいなかった。
妹のエレンのほうはすらりとした長身痩躯で赤みがかったブロンド、光の加減で翠にも見える明るいブランの眸で、表情がないと一見冷たげに見えるほど整った中性的な美貌の持ち主だ。
一方、兄のトリスタンのほうは、しなやかな細身ながら背丈は中背よりやや高い程度。癖の少ない青みがかった黒髪に縁取られた顔はやや浅黒く、尖った顎と薄目の唇は鋭利な印象なのに、濃い睫に縁取られた大きな灰色の目のためか独特の不思議な華やかさがある。
子供のころはエレンのほうが活発な美少年に、トリスタンのほうが引っ込み思案でおとなしい美少女のように見えたものだ。
「……ねえトリスタン」
「今度はなんだ」
「もうじきカトルフォードに着くだろうし、改めて、ソロー教授からあなたのところにきたっていうお手紙の内容を話してもらえないかしら?」
「ああ」
教え好きの次兄――ちなみに職業は牧師だ――が嬉しそうに頷いて口を切った。
「教授が仰るには、カトルフォード大学のスペリオル学寮の学長が先月亡くなったんだが、その遺品のなかにあるべき何かが無かったというんだ」
「それをわたくしに捜して欲しいと?」
「そうだ。教授はお前のことを随分高く買っているようだよ」
権力者からの高評価が大好きなトリスタンが満足そうにいう。
「そりゃそうよ」と、エレンは胸を張った。
「お前はもう少し謙虚になりなさい」と、次兄が説教台の牧師口調でいさめる。「ところでさっきの話なんだが――」
「さっきのって、どの?」
「決まっているだろう。お前の将来の話だ。お前も今はこれでいいかもしれないが、もう少し齢をとったら、貰い手があるうちに結婚を考えなかったことをきっと後悔するぞ? ジェイン姉さんもスージーも心配しているんだ。実はスージーの従兄弟にだな――」
トリスタン夫婦の知り合いの独身男のプレゼンテーションが再び滔々と始まってしまう。
エレンが心を無にしてベエベエと鳴く川岸の羊を数えていると、
「――おい聞いているのかエレン! 僕はお前の将来をだなあ!」
話題が振り出しに戻ってしまった。
大学街まではあと二時間。
船旅はまだまだ長い。