もう一度あの空の下で
「あら、おはよう」
「今日から高校生ね」
「あ、お、オハヨウゴザイマス」
あからさまにぎこちなく、挙動不審、吃ってしまったが、顔面を引き攣らせながらも最低限の営業スマイルで近所のおばちゃん達に挨拶する。
嗚呼、最悪の気分この上ない。うわぁホラすぐ俺の方を見ながらヒソヒソ噂話やってるよ。何言ってるかなんて聞こえないけど大体おばちゃん達が集まりゃ人の悪口か噂話しかしないでしょ苦手だわぁ…
今日から高校生になるというのに気分がアガるどころかサガりっぱなし。肩を落とし深い深いため息をついた
「はぁぁあ…」
俺は三芳彰仁。今日は高校の入学式だ。
今まで生きて来た中で、このどこからどう見ても極悪人面の見た目とそれ故の陰気で根暗な性格な上、人見知りネガティブ赤面症という最悪すぎる+αのせいで、仲のいい友人なんて出来た試しがない。
いやそもそも友人なんて以ての外で誰も好き好んで俺に話しかける人なんて居ないんだったわ。俺だって望んでこうなったわけではない!本当はいっぱい皆とお話したいし楽しい青春を送りたいんだっっ!
てなわけで心機一転!高校デビュー!なんてもんをしてみようかと、実を言うと昨日は夜遅くまで鏡に向かって笑顔の練習なんてしてみたが、己の目つきの悪さに涙が出てきただけだった。
目つきが悪いのは視力が悪いせいである。どうしても何かを見る時には目を細め眉間に皺を寄せてしまう。じゃあ矯正しろよなんて思ったでしょ。なんと眼鏡が死ぬほど似合わないんだよなぁ!!コンタクトはって?いや怖いし…というわけで今に至る。似合わないとか怖いとか自分変える気ないでしょ!って?間違いなさすぎてぐうの音もでない。
ただまあこの目つきの悪さを少しでも人様の迷惑にならないよう隠そうと前髪を伸ばしていたのだが、まあこれもまた視力低下の原因でもあるのだった。視力低下→目つきが悪くなる→怖がられる→前髪を伸ばす、そして視力低下、、、という完全なる負の連鎖だった。
でも新天地に行くのだから自分を変えたくて、今までよりほんの少しでも改善していきたかった故に、ほんと気持ち程度に前髪でも切ろう!と兄貴に散髪を依頼したのだが....
まあこれが有り得ないくらいに失敗したのだった。知ってたけど!兄貴不器用だから120%失敗するって分かってたけど!...ホラ見て…めちゃくちゃ揃っていやがるぜ…?
鏡の前で呆然と立ち尽くす俺の後ろで、俺の前髪を奪った張本人と悪ノリ大好きクソ姉貴が腹を抱えて大爆笑していた。コイツらめ、ほんとマジで殺したろか…なんて思いつつグッと殺意を押し込めた昨晩。ほんともう、全部が全部ツイてねえ。
これはもう誰かが意図的に俺に華々しい高校生活を送ることを全身全霊かけて超全力で阻止しているに違いない、とそう諦めた。
ツイてないというか、不幸体質というか。高校に入学するとなった今でもキラキラした世界とは縁がないんだということを思い知らされもう一度大きなため息をつき、ヒソヒソと聞こえる噂話から逃げるように学校への道を急いだのだった