言葉の純度
人は何かを追い求めるが故に満足しない。
誰かが言った。本当にそうだと思う。俺はこんな色じゃ満足できない。それもこれも全部君のせいだ。
俺は共感覚を持っている。と言ってもちょっと特殊だが、人にオーラがついたように人の周りに色が見えるのだ。それは人それぞれ違うし、その時時で変化する。だがこの感覚をもってよかったことなど一つもない。人の醜い色が、汚い色が透けて見える。
「ありがとう」そう言った裏の憎しみ。
「おめでとう」その裏の妬み。
「残念だったね」それとは反対の歓喜。
なんど、こんな感覚なければと思ったか。この世に単純で純粋な感情など一つもなかった。
それでも俺は君を見つけてしまった。後ろが透けてしまうほど、透明で何にも染まらない、いや全てに染まっている君を。
「綺麗だ」
思わず初対面の君に言ってしまったね。後で気づいた俺はバツが悪そうにうつむいてたっけ。そんな俺に君は頬を赤く染めながら『うれしい、ありがとう』そう言ったんだ。
淡く優しい色だった。俺はこの色を言い表すための言葉を知らない。むしろ言い表さないほうがいい。
俺は一瞬で君に惹かれた。透明な君に。でも俺はもう二度と君と会うことはなかった。
真冬の終わり、雪の結晶とともに現れた君は、春にはもう溶けてしまったのだろうか。霞に映った幻なのか。もう一度だけ会いたい、会いたい、会いたい、会いたい。
一度でも澄んだ湖で過ごした魚は、二度と泥水では過ごせない。君が見せたその純度100%の言葉しか、俺はもう受け付かない。
風が吹き荒れるこの場所で、濁った空を仰ぐ。そして透明な板を踏む。
「俺はもうこんな色じゃ満足しない」
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