4話
あれから私達は、昨日訪れた商店街へと向かいローウェンの露店を探す。流石と言うべきか、王都の中継地点なだけはあって今日も凄い賑わいだ。
「昨日はゆっくり見れなかったけど、今日も凄い賑わいだね。」
「はい、ですのでロベリア様。お手を」
「却下。」
「なら俺の手」
「却下。」
さっきからずっとこの調子だ。何だか時間が経つに連れ余計拗らせている気がしてならない。
…これは早めにローウェンに会いに行くべきだったな。
そう思い、足早に商店街を進んでいくとやっとローウェンの店へと辿り着いた。
すると向こうもこちらに気が付いたようで、にこやかにこちらへと手を振っていた。今ではこの笑顔がとても胡散臭く見える。
「いらっしゃい、ロベリア。思ったより早かったね。」
「…ローウェン。お前、知っていたな。」
「まあね、どうせ遅かれ早かれ来ることは分かってたね。だから私飴渡しといたでしょ。ちゃんと食べた?」
「まだ食べてない。あれ何か意味あったの?」
「あいやー、食べなかったのね。それは悪い事したね。ちゃんと説明すればよかったよ。」
ローウェンの話によると。私が竜神族であると知った時に、私の魔力にあてられて二人が骨抜きになる事は分かっていたそうだ。
その為、漏れ出す魔力を抑える為に飴を渡したようだが…。どうやらその意図は私には上手く伝わらなかったようで。
「ロベリア様コノハをちゃんと見てください。」
「いや、俺を見てくれ。」
「どうすんのコレ。」
「まあまあ、私その為にちゃんと準備してたよ。っていうか。この二人、竜人族ならこうなること知っていた筈なんだけどねー。何でこうなったのかな。」
そう言うとローウェンは呆れた目で二人を見つめていた。
一応、昨日の流れで飲み会することになった事も報告しといた方がいいだろうか?
「なんか、昨日一緒に酒飲んでた時には既に手遅れだった。あと、ついでに言うと魔力云々の話は今朝聞いた。」
「…あいやー、本当に竜人族や竜神族は皆酒好きね。その勢いで箍が外れてしまったね。私には分からないけど、よっぽど心地良かったのね。」
「人を麻薬か何かみたいに言わないで貰える?」
まだR18になるつもりはないよ、失礼な。
「取り敢えず、昨日の飴そこの箱の上で食べて待つね。私用意してたのより強めの気付け薬作り直さなきゃ。」
「お金とか何か欲しいものある?ある程度なら用意出来るけど。」
「お金いらないから貸しで良いよ。それよりそこの二人見張ってるよろし。」
「いや、貸しの方が怖いんですけど。あと、二人とも全然離してくれないんですけど。」
私の抗議も虚しくローウェンは店の奥へと消えていった。
因みに私はというと、コノハとキリヤには抱きつかれて身動き取れないでいる。…解せぬ。
それにしてもコノハとキリヤ、幸せそうだなあ。
ローウェンは心地よくなるとは言っていたが、どんな感じになるのかちょっと気になってきた。
…今後の勉強の為にも聞いてみよう。
「コノハ、今どんな感じ?」
「はい、ロベリア様。全てが満たされ他に何も要らない感じです。」
「…左様ですか。」
どうしよう。本当に私の存在が禁止薬物並みになってきた希ガス。
「じゃ、じゃあキリヤは?」
「女を抱いた直後みたいな?」
「ライトニングスター」
ッバチバチ!!
………ドサ…。
…思わずアーミラリを機動させたのをどうか許して欲しい。大丈夫、ちゃんと手加減したよ。…本当だよ。
言われた通り箱の上で飴を食べていると、それから暫くしてやっとローウェンが店の奥から帰ってきて、気付け薬とやらを持って来てくれた。
「いやー、悪いね。少し手間取ったよ。何しろ作るの久し振りだから…何かあったね?」
「いや、何も無かったよ。キリヤが途中で眠くなったみたいで寝かせてあげたんだ。…ッハハ。子どもみたいで全く仕方がないなあ。」
「…まあ、薬できたから二人に嗅がせるよろし。」
ローウェンは突っ込んだら自分も痛い目をみると思ったのか、それ以上追求してこなかった。
賢い商人は好きだよ、私。
「コノハ、キリヤこっち向い…しまった。キリヤ寝てたんだった。コノハこっち向いて。」
「なんですか?ロベリアさ……ううぅう、臭いです。酷いです。キツイですぅううう。」
「やめろ、まるで私が臭いみたいじゃないか。」
そういうや否や。コノハは、さっきまでの恍惚とした表情を引っ込め苦悶の表情でこちらを見つめてきた。
「…うん、ちゃんと薬効いてるね。私の調合間違いなしよ。ほいじゃ、キリヤこれ嗅ぐね。」
「……っが!?」
「ローウェン、キリヤに容赦ないねー。」
「私男に優しくする趣味無いね。」
諸行無常だね、ローウェン。
「…う。ろ、ろべりあ様?俺とコノハは一体?」
「あ、起きたキリヤ。おはよー、気分はどう?」
「何か大切な物を失った気がする。」
「私もです、兄様。」
「うん、大丈夫。何も失って無いね。元に戻っただけよ。」
「…だって。何か覚えてる?二人とも。」
そう言うとキリヤ達は少しぽけっと顔をした後、何やら思い出した様で二人して空を仰いでいた。
「…あ、あーー、すいませんでしたロベリア様。俺達やらかしたんすね。」
「まあ、私のせいみたいな所あるから気にしないで。寧ろ私の方こそごめんね。竜人族の体質とか知らなかったから。」
「…いいえ、ロベリア様。私ども竜人族が半端もの故に醜態を晒しただけですのでお気遣いなく。」
「…まあ、竜人族も竜神族も数が少ない種族あるから。大方同族に会えた嬉しさで仲間意識が暴走しただけね。」
「ローウェン物知りだね。」
「コウガの國じゃ常識よ。」
ところ変わればってやつなんだろうねきっと。
その後、正気に戻ったキリヤ達はギルドに向かい依頼をこなしてくると言いローウェンのお店で別れる事になった。
「だから、私貸しで良いよ言ったね。」
「い・や・だ・こ・と・わ・る」
私はというとローウェンの言っていた『貸し』がどうも引っ掛かったので即日返金を要求?していた。
「何よ、タダになって何が不満ね。この贅沢者め。」
「只より高いものはないって言葉を商人のローウェンさんは知らないんですか?」
「知ってるから貸しでって言ったね。このうっかり竜神。」
「尚悪いわ、この性悪商人。」
ついに開き直りやがったこの性悪商人。絶対無理難題押し付ける気満々だったよこの人。
「…はぁ、しょうがないね。今回は私が折れてやるある。んで、何をくれるあるか?金か?物か?」
「急に投げ槍になるなし、どっちでも良いよ。最初に言ったでしょ、ある程度なら用意出来るって。」
「…ッハ、なら幻の霊草【竜星華】でも出してもらおうか。」
「ほらよ。」
そう言われ腹が立ったので空間魔法で即座に現物を出してやったら、ローウェンは唖然とした顔をしながら受け取った。
「…やっぱり竜神族は規格外ね。何でこんなもの持ってるあるか。」
「企業秘密でーす。」
と言い私はその場を後にした。
さっさと適当にアイテムを渡して、キリヤ達と一緒にとギルドに向えば良かったな。と思いながら依頼を受ける為にギルドへ向かうのであった。
ギルドに到着し中に入ると、もう掲示板にはそこそこいい依頼は全部捌けてしまい。残っているのは採取等の安くて低いランクの物だけだった。だか、私は昨日冒険者登録したばかりの最低ランクなので正直さして困らない。
私は数ある依頼の中から薬草採取を選択し、ノンノさんがいるギルドカウンターへと向かった。
「すいません、この依頼お願いします。」
「はい、薬草採取の依頼ですね。初依頼頑張って下さいね、ロベリアさん。」
「はい、頑張ります。」
依頼を受けた後外に向かう為に門へと向かう。門番の兵士の様子を伺うと、昨日のあの赤髪の男いた。向こうもこちらに気が付いたらしく少し気まずそうな顔をしている。
「やっほ、昨日ぶり。この前はごめんね、なんだか驚かせてしまったみたいで。」
「…いや、こちらこそ。ドラゴンに気が動転してしまいろくに話を聞かずに悪かった。」
「仕方ないよ。ドラゴンは私にとって当たり前だけど、他の人達には普通じゃなかったのだから。こちらの勉強不足が原因だから気にしないで。今度から気をつけるね。」
「そう言ってもらえると助かる。」
お互い、蟠りが無くなった所で改めて自己紹介をした。その方が今後の為にもなるだろう。
「これからここを拠点に冒険者活動をするロベリアだよ。何かあった時よろしくね。」
「私はここの門番をしているエリクだ。こちらこそ、よろしく頼む。」
そう言い挨拶もそこそこに私達は別れ、私は薬草採取に向かう。目指すはこの世界に来て初めて目を覚ましたココロポの森だ。目的の薬草は森の浅い所で採れるので魔物もそんなに強くない。その為低ランク冒険者が練習するにはうってつけの場所である。
浅い場所にも関わらずそれなりに人がいるのが確認できた。
お互い邪魔をしないように気をつけようね。
「…ココロポ草20個とスズナリ草20個、アサツユ草20個だね。多めに納品すると評価アップか。なら、2倍くらい採れたら良いかな。」
さっそく探知魔法を使い素早く集める。きっとみんな地道に見つけては採取してるんだよね。何かズルしてるみたいでごめんね。折角なので肩に乗っているリリィちゃんにもお願いして見ようかな。
「リリィちゃん、薬草採取手伝って貰っていい?」
「クルル!」
リリィちゃんは任せて、とでも言うように飛んで行ってしまった。…本当に分かるんだろうか。まあ、バディやしなんとかなるやろ。
暫くするとリリィちゃんがココロポ草10個咥えて飛んできた。…おお本当に分かるんだ。
しかし、何やら機嫌が悪そうだ。一体どうしたんだろう?
「リリィちゃん、ココロポ草採ってきてくれてありがとう。こっちも目的の薬草は粗方入手できたよ。ところでなんかあった?」
「クルル!グウウルル、ガウ!!」
「ごめん、何言ってるか全然わかんない。」
「…クウウ。」
リリィちゃんは何かを訴えてくるが全然わからない。けれどトラブルに巻き込まれていたのは確かなようだ。
すると、遠くから一人の男の子がこちらへと近づいてきた。どうやら獣人族の様で猫の耳に尻尾が特徴的だ。服装は孤児の様で、お世辞にも綺麗とは言い難い。武器もショートソードのみと、随分頼りない。黒色の癖っ毛を風邪に靡かせながら必死にこちらへと走ってくる。一体どうしたというのだろうか。
「おーい、そこのあんた!そのピクシードラゴンを捕まえてくれ!」
どうやらリリィちゃんに用があるらしく、金色の目は絶対に逃すまいという意志が伺えた。
いや、本当に何があったんだってばよ。
「リリィちゃん本当に何したの。」
「グルル!」
私がリリィちゃんに声を掛けると、まるで心外だとでも言うように鳴いていた。どうやらリリィちゃんは何もしていないようだ。そんなやりとりをしていたら目の前まで男の子がやってきていた。栄養状態が余りよくないので分からないが恐らく13歳くらいの子だろうか?
「私のリリィちゃんに何か御用?」
「え、そのドラゴンあんたのだったのか!?てっきり野生のドラゴンだと思って捕まえようと思ってたから。」
「申し訳ないけど、この子は私の子なの。だからもう追いかけ回さないであげて。」
「そっかー、それは悪かった。売れば金になると思って必死だったから、つい。」
どうやら男の子はリリィちゃんを売るつもりだったらしい。
……控えめに言ってなんて無謀な。小さいといっても仮にもドラゴン。子どもに相手が出来る魔物ではない。それに加えピクシードラゴンの体の大きさはあてにならないというのに。
「まあ、誤解が解けたみたいだから別に良いけど。ドラゴン相手にその軽装備で追い掛け回すってどうなの。」
「ピクシードラゴンくらいなら捕まえられるかなと思って。」
「ガウ!」
流石にこれにはリリィちゃんもおこのようだ。
ドラゴンはプライドが高いからな、チビっ子よ。
リリィちゃん、どうどう。
「ピクシードラゴンはレアな魔物ってだけじゃなの。小さいからといって、大きさに惑わされると痛い目をみるよ。この子は魔法で人が乗れるくらい大きくなることも出来るんだから。あと、ドラゴンは総じてプライドが高い。この子は大人しいから不機嫌で済んでいるけど、普通なら激怒だからね。」
そういうと目の前の男の子は顔を青くさせながらリリィちゃんに頭を下げていた。それはそうだろう。リリィちゃんは大人しいだけでドラゴンのプライドは捨ててないからね。
リリィちゃんの溜飲を下げる事が出来たところで自己紹介をする。
「私はロベリア、竜神族。年齢は数えてない。こっちがバディのリリィちゃん。よろしくね。」
「竜神族!初めて見た。俺は猫の獣人族ラキア、13歳よろしく。リリィ本当にごめんな。」
「クルル!」
「お許しが出たよ、良かったね。ラキア。」
どうやら彼は見立て通り孤児だった。基本薬草採取で地道に生計を立てるそうだ。だが今回、自分でも捕まえれそうな大きさのピクシードラゴンが目に入り、彼はドラゴンが子どもだと思い込み捕まえようとしたそうな。恐ろしい…二度とすんなチビっ子よ。
「ところで、ラキアはこれからどうすんの?」
「俺?薬草採取続ける。」
「いや、違う。ご飯、ご飯。」
そう、今はもうお昼を少し過ぎたあたりなのだ。
そろそろお昼ご飯を食べないと夜ご飯が食べられなくなってしまう。
「…あー、俺昼飯食べないから。」
「じゃあ、折角だから一緒に食べよう。私も一人分だけ作るの面倒だし。」
「いいよ、なんか悪いし。」
「大丈夫、ちゃんと下心あるから。」
「あるのかよ。」
そう、私はラキアに対して大変下心があるのだ。
何せ、ラキアは孤児。こんな事を言っては非道に思われるかも知れないがとても使い勝手が良い。
何しろ私は異世界に来て2日目の身。
正直まだ右も左も分からない状態の私には、ラキアの存在は情報収集をするにあたってうってつけなのである。
「私はこの街に来て日が浅い。だからラキアに色々教えて欲しいんだ。その代わり私はラキアにご飯を提供する。どう?」
「なんだ、そんな事か。いいぜ、引き受ける。俺はてっきり売られるのかと思ったよ。」
「失礼な、そんな事しないよ。」
一体人の事をなんだと思ってるんだ。
そんな事を思いなが異世界に来て初の料理に私は勤しむ。…食材は基本同じだから大丈夫だよね?