2話
キリヤ兄妹のおかげで街に入ることが出来た。通行料金は少し割増だが、問題なく払える値段だった。硬貨がゲームと同じで通じて安心した。
街を見渡せば、石畳や煉瓦で造られた家をみると中世ヨーロッパを彷彿とさせるが街灯等は魔道具らしきものがつかわれており、古いんだか新しいんだかよくわからない造りになっている。
馬車も走っているが、馬車を引いているのは馬ではなく。アルパカと馬を足して割った感じの生き物が走っている。何だ、このもふもふとした生き物は、かわいい。等と観察していると。今度は、前世でみた車のようなものも走っていた。もう、眼にした物が初めてでリリィと一緒にお目々がキラキラである。
「ロベリア様、此方は私どもが拠点にしているルクエという街です。王都から各地域へ行くときの中継地点の為物流が盛んで大きな街になっております。ですので、あまり私どもから離れないでくださいね?」
「…わかってる。…わかってる。」
「…駄目だ、ロベリア様完全にお上りさんだわ。俺達が何とかしないと…。」
しょうがないだろう、こちとら異世界転生0日目のバブちゃん何だから。見るもの全てが新しいだよう。お?あそこの露店に置いてある物何だか見覚えが…。あ、これゲームでみたやつだ、気になる。
「ロ、ロベリア様!勝手にふらふら行かないでくれ。」
「あ、ごめん。気になる物があったからつい。」
「ロベリア様が気になるものですか?私も気になります。何ですそれは?」
露店の前で話してたら店主の男が此方に目をやり、にこやかに話し掛けてきた。30代くらいだろうか?何だか中華風の服装に長い黒髪を後ろで三編みにしており、切れ長の黒目が印象的でどこか懐かしさを感じる。アジア系ってやつだな。
「お、あんた達お目が高いね。これはコウガの國の霊草ね。とても有り難い薬の材料よ。今ならなんと、冒険者割引でたったの5万リルね。とてもお値打ち品よ。」
「え、高っ!?俺草にそんなに払えないわ。」
「貴方とても失礼よ!草違う、霊草ね!有り難い草ね!」
「草言うてはるやん草」
「お嬢さんもそこの男と同じか?買うの、買わないの?買わないならどっか行くね。私とても忙しいよ。」
「買うよ、それの使い方知ってるから。5万リルで良いんでしょ。」
「なんだ、買うなら最初からそうするね。じゃあ冒険者カード出すよ。割引するから。」
「え、カードって何?」
「「「は?」」」
その時3人があり得ないものを見るかのように此方を見てきた。えー、なんですか。持ってないと駄目なんですか?常識とか知らないよ。0日目のバブちゃんにそんな眼を向けないでよー。
「…まぁ、私は割引無しで売るでも良いよ。値段は高くなるけど…。10万リルね。」
「え、高過ぎじゃありませんか?」
「違うね、割引が安過ぎるね。お姉さん、価値知らないからそう思うだけよ。現にそこのお嬢さん5万リルで買う言ったよ。それが証拠よ。私あくどい商売しない主義ね、商売信用第一よ。」
「10万リルは高いけどね。」
「いや、高くないね。この状態維持したままコウガから持って来たね。そう考えると妥当よ。」
うーん。マップから見るにそれなりの距離あるからなぁ、確かにそう言われれば妥当かもしれない。
「で、どうする?買うの、買わないの?」
「取り敢えず、また来る。その時あったら買うよ。」
「私、取り置きはしない主義ね。無かったら諦めるね。苦情は受け付けないよ。」
「うん、それでいいよ。」
「なら、私夕方くらいまではここに居るよ。また来るよろし。」
そう言い店主と別れた後、私はキリヤ達に冒険者ギルドに行き登録をしようという話になり早速向かうことになった。
「…ねえー、もう離してー。大丈夫だよー。もう、勝手にどっか行ったりしないからー。」
「いいえ、駄目です。ロベリア様は目を離すとすぐに何処かに行こうとするので手を繋ぐのが1番です。」
「せめてキリヤだけでも離してよー。」
「駄目だな。」
「なんでぇ!?」
そう、今私はキリヤ兄妹に連行されているのである。右手にコノハ、左手にキリヤ。完全に詰みである。冒険者ギルドを目指して街を移動している中、目に入る露店を見てはふらふらと吸い寄せられた結果、キリヤ兄妹にガッチリホールドされてしまい。このざまである。解せぬ。
「ロベリア様、着きましたよ。此方がこの街の冒険者ギルドです。」
「大きいね、何だか大衆食堂みたいな雰囲気もあるね。」
「基本、冒険者ギルドは酒場と併設してるからな。ロベリア様みたいな人には珍しいのかもな。」
「柄の悪い冒険者のエンカウントとかありそうだね。」
「あー、田舎とかはまだ割とあるかも。だが、ここらは王都寄りだからな。そんな事をする馬鹿は基本いない。何より、恥ずかしいし。そんな事をするくらいならランクで示せって感じだしな。」
「なるほどなぁ。」
「では、ロベリア様。早速入って冒険者登録を済ませましょうか。」
そんな事を入口で話してたからだろうか、前から私達に向かって大きな男が近づいて来るのがみえた。なんだよう、フラグ回収早すぎだろう。
「よう、Aランクのキリヤ様じゃねぇか。可愛い妹の次は美人のお嬢ちゃん引き連れて良い御身分だなぁ?」
「…ザック。」
キリヤは苦虫を噛み潰したような顔で男を見た。ザックと言われた茶色の短髪に筋肉隆々の大男は背中に大剣を背負い中々の貫禄である。そこそこ出来る冒険者のように思えるが、どうやらあまりキリヤとは仲がよくないようだ。
「…キリヤ。」
「…ロベリア様、何事も例外はあるんだ。みなまで言うな。」
「そうです、ロベリア様は気にしなくて良いのです。御身は尊き御方。このような些末ごと気にしなくて良いのです。」
「…気にしなくていいって、2回言った。」
「おいおい、それはないだろぉ?せっかく俺様が声を掛けてやったんだ。有り難く思えよな。」
「テンプレ、俺様。もう、お腹いっぱい。」
「嬢ちゃん、俺の事で胸がいっぱいってか?見る目があるじゃねぇか。」
「お前は相変わらず、耳が無いんだな。胸じゃねぇよ、腹だよ。」
「兄様その言い方はちょっと…。」
「私、お腹出てないもん!胸あるもん!」
「ロベリア様ちょっと黙って。」
キリヤそういうとこだぞキリヤ!
「ザック、いくら貴方といえど。この御方に無礼は許しませんよ。」
「っは、普段兄貴に隠れてる妹ちゃんが今日は吠えるじゃねぇか。なんだぁ、ヤキモチか?」
「貴方、目も無かったのね。」
「言われ過ぎてて草」
「ロベリア様は静かにして下さい。」
コノハそういうとこだぞコノハ!
「私達はこんな所で遊んでいる暇は無いんです。さっさと道を開けて下さい。」
「まぁ、そう言うなよ。っていうか何だ?その嬢ちゃん関係か?」
「お前には関係ないさっさと退け。」
「いいや、退かないね。俺様は気になったらしつこく迫るタイプなんだ。知ってるだろ?」
「いや、そんなはた迷惑堂々と言われても困るんだけど。」
「嬢ちゃん困ってんのか?俺様が助けてやろうか?」
「余りの傍若無人ぶりに大草原不可避」
「ロベリア様はたまによくわからない言葉を言いますね。竜神族の方ならではですか?」
私の口から度々出てくるネットスラングを全竜神族の標準にしてしまうと、後で袋叩きにされる未来しか視えないのでここは訂正させてもらうとしよう。コノハ、覚えなくていいよ。
「いや、ただのネットスラングだから気にしなくていいよ私だけだから。」
「まぁ、ロベリア様だからな。」
「おいキリヤそういうとこだぞキリヤ!」
「え?何がだ?」
「わかってるじゃねぇか、嬢ちゃん!」
「やめろ、お前はシンパシー感じんな。きめえ。」
キラキラした目で此方見んな馬鹿。っていうか、そんな風に入口で騒いでいたからだろうか。先程ギルドの女性職員が慌ただしく部屋の奥へと走っていくのが見えた。何だかとても嫌な予感がしてならない。そう思っていたら、ギルド職員が入っていった部屋の奥から1人の男性が現れた40代くらいだろうか?金色の瞳に紺色の髪をした男性は、アシメトリーの髪を気怠げに片手でかきあげながら此方にやって来た。そのしなやかな筋肉はお色気担当ですね分かります。そうであってくれ。
「おい、貴様らそこで何をしている。通行の邪魔だ。喧嘩なら余所でやれ。」
「「「ギルマス」」」
「天よ、何故見捨て給うた。」
なんだよー、ギルド登録しに来ただけじゃんか。こんな所で大御所出さないでよー。
「違います、ギルマス。私達はロベリア様のギルド登録をする為に此方に来たのです。そしたらザックが私達の邪魔をしてきたのです。」
「そうそう、こいつが通さねぇとか言うから。」
「なんだよ、ちょっとからかっただけだろ?」
「…ザック。」
そう言い、ギルマスとやらがザックに向かって一瞥するとザックはバツが悪そうに視線を外し引き下がった。どうやら流石にギルマスとやらには逆らえないようだ。
「…ッチ、わかったよギルマス。じゃあな嬢ちゃん、今度どっか飲みに行こや。奢るからよ。」
「いや二度と来んなし。」
そう言ってザックは嵐のように過ぎ去って行った。なんだったんだ、あいつは本当に。そう思っていたらギルマスから視線を感じた。
「…んで?此方の嬢ちゃんは何者なんだ?肩にピクシードラゴンを乗せて歩いてるなんて、珍しいな。今朝門兵から連絡があった竜神族とはお前のことだな。」
なんだ、聞かなくても知っているじゃないか。っていうかリリィちゃんのことちゃんと触れてくれんのね。さっきの脳筋は最後まで気づかなかったけど。
「私はロベリア、ただの旅人だよ。こっちはバディのリリィちゃん。ここで冒険者登録が出来ると聞いて伺った次第だ。途中変なのに絡まれたけど…別に私から何かしたい訳じゃ無いよ。」
「俺はここのギルドマスターのキースだ。まぁ、ザックに関してはそうだろうなとは思っていたから安心しろ。彼奴がガキなだけだからな。」
「なら、何とかしたら?」
「悪いな、基本ギルドは犯罪を犯さない限りその辺り不干渉なんだ。同じ冒険者同士で対処してもらうようになっている。」
「私はまだ冒険者登録してなんだけど?」
「だから、今回は特別に俺が出てきてやっただろうが。」
「当たり前でしょう。」
私がそう言うとギルマスとやらは若干表情を少し引つらせた後に深いため息をし、後はお前たちに任せる。とキリヤ達と女性職員に言い残し。先程の部屋へと戻って行った。
「…それではロベリア様、少し遅くなりましたが冒険者登録をしましょうか。」
「冒険者登録って大変なんだね。」
「いや、違うと思うぞ。」
そんな事より登録、登録!!露店が閉まる前にカードを貰わなくては。
その後、受付嬢のノンノさんからの指示でカードに魔力を流し込みギルド登録は特に問題なく行わる…はずだった。
【種族:竜神族 レベルーー】
【名前:ロベリア】 【出身地:霊峰ルミナス】
【称号:新米冒険者】【冒険者ランク:E】
【ジョブ:占星術師】【スキル:???】
【バディ:ピクシードラゴン(リリィ)】
「あら?おかしいですね。レベルとスキルが標準されませんね…。どうしてかしら。」
「私は長生きだからもしかしたら他の人と違って魔力が特殊なのかも知れないですねあははははは。」
思わずノンブレスで早口でまくし立ててしまったが、どうか許してほしい。ま、まずい。レベルとか絶対表示出来るレベル超えてるやん。スキルとか見せられないやつー!!!
「ノンノさん、ロベリア様は私どもと違い竜神族なのでしかないなかと。」
「そうそう、俺達は竜人族だから表示出来てもロベリア様は規格外だから気にしなくてもいいよ。寧ろそれが普通だから。」
おいキリヤこのやろうキリヤ。かなり釈然としないがこの場では仕方ないので乗っておくとしよう。
「そう…ですね。竜神族の方を登録するのは、私も初めてですので驚きました。レベルとスキルが表示されていませんが、基本情報は入力出来ましたので特に問題なさそうですね。…それにしても占星術師なんて珍しいですね。大変じゃないですか?」
「いえ、慣れればそんな事無いですよ。基本回復やバリアとか後方支援はやること一緒なので。それに、ランダム性があって楽しい職業です。」
「…楽しいですか。でも、目当てのカードが引き当てられないとか聞きますよ?」
「出るまで引けば問題無いです。」
「そ、そうですか。」
そう、出るまで引けば良いのだ。異論は認めない。
「じゃあ登録完了でいいですか?」
「はい、問題ありません。それではギルドの基本説明をはじめましょうか。」
そう言い受付嬢のノンノさんからカードを貰いギルドの説明を受けた。ランクは下からE、D、C、B、A、とあり最後に最高ランクのSがあるらしい。EからCまでは割といけなくもないが、そこから上のランクは一つ上がるのに相当時間が掛かるそう。キリヤ達はAランクなのだが、Sランクになる為にはかなり厳しい条件が必要になるらしく中々上がれないのだという。だからSランクはかなり貴重な人材らしいので、国の縛り等が発生するので中々の厄介だそう。有名税ってやつだね。キリヤ達は気が付いたらAランクになってた程度なのでSランクには固執してないんだそう。因みにザックはBランクなんだって。あ、だからキリヤ達に…察し。
「大体こんな感じです。何か質問はありますか?」
「魔石とか、モンスターの買い取りとかしてくれるの?」
「ええ、その辺りはきちんとしていますから問題ないですよ。因みに先に解体をして持ち込みますと、そのまま持ち込むより高値で買い取りをいたします。状態にもよりますが。あと、薬草とかも買い取りをしています。そういえばロベリアさんは、錬金術師でもありましたね。ポーションとかありましたら売って頂けませんか?あれはいくらあってもいいかですから。」
「構いません。取り敢えず50本くらいで良いですか?」
「はい!それだけ沢山あれば助かります!」
良かった。どうやら常識的な数字の範囲だったらしい。
「意外だな、ロベリア様なら100本とか1,000本とか言ってくるかと思ったのに」
「シッ、兄様。ロベリア様も何となく常識を掴んできたところなんです。暖かく見守りましょう。」
「聞こえてるからね。そこの兄妹。」
なんだよう、私だって『あれれ?やっちゃいました?』を好きでしたいわけではないんだよ。