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Lawless Hunter  作者: 佐久謙一
第零章 D・P・ダブルダウン
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0-6

 コウは怪訝な表情で隣のバンに顔を向ける。すると、ゆっくりとバンの運転席側の窓が開き、運転手が顔を覗かせた。ダークスーツを着た男だった。男は鋭い目つきでこちらを睨みながら、ゆっくりとした動きで右手をこちらに向けてきた。

 その手には拳銃が握られていた。

「おっさん。ピストル。三十二口径」

「放っておけ」

 銃を向けられているとは思えない呑気な受け答えを行う二人。銃を向けた男は二人の反応に戸惑いつつも、そのままコウ達に向けて発砲した。

 乾いた銃声が連続で鳴り響いた。周囲の通行人が悲鳴を上げる。

 男は間髪入れずに乱射し、一瞬でマガジン全弾を撃ち尽くした。しかし放たれた銃弾は全て防弾ガラスに弾かれ、ウインドウに傷一つ付けることが出来なかった。

 男の顔に驚愕の表情が浮かぶ。そんな男の顔をコウはのんびりと眺めていた。

 銃を持った男は、悪態をつきながら助手席の方に体を向けた。そして今度は別の銃を手に持ち、こちらに向けてきた。

「おっさん。サブマシンガン。九ミリだな」

「問題ない」

 サブマシンガンの銃口が火を噴いた。放たれた弾丸が次々とウインドウに衝突し、派手な音を立てる。だが、これも同様、ウインドウに傷一つ付けることはなかった。

「ていうか、おっさん。呑気に撃たれてないで早く車出せよ」

「まだ赤だ」

 レイが前方を指差す。確かに信号は赤だった。だが、銃声により通行人が逃げたことで、横断歩道を渡っている人は誰もいなかった。

「いけるだろ!」

「これ以上、マイナスを増やしたくないな」

 その時、隣のバンのスライドドアが激しい音を立てて開かれた。コウがそちらに顔を向けると、開け放たれたバンの後部座席にゴリラのような大男が乗っていた。黒いスーツと相まって、一瞬、本物のゴリラに見えた。そしてその手には重機関銃が握られている。

「あぁ……えっと、多分七・六二」

「……そいつはちょっとまずい」

 レイがそう呟くなり、蹴飛ばされたようにミニバンが急発進した。

「まさかサンドロ直々に来るとはな」

 レイはドリフトを行いながら交差点を曲がる。激しい運転に右往左往されながらコウは口を開く。

「サンドロってことは――あのゴリラ、ダニーボーイの親父か!」

「ああ、サンドロの奴は相当な武闘派だ。いずれ報復に来るとは思っていたが、こんなに早いとはな」

 コウは後方を確認する。こちらを猛スピードで追跡してくる二台の黒いバンが確認できた。

「全く何て野郎だ! ハンター反対派が近くにいるってのに、いきなり銃ぶっ放しやがって。ま~た俺達への風当たりが強くなる」

「例え、明日からハンター全員が聖人君子になろうと何も変わらんさ」

「しかし、追って来ているのが、たった二台って少なくねえか?」

「構成員でもない馬鹿息子の報復に、組織総出で来るわけがない。おそらくあいつらはサンドロの私兵だ。精々、十人前後ってところだろう」

 再びドリフト。コウは危うくウインドウに頭をぶつけそうになった。

「それでおっさんどうすんだ? 振り切れる気配はねえけど。このまま警察署にでも逃げ込むか?」

「良い機会だ。サンドロも金に換える」

 レイは淡々とそう告げた。

「なんかヤクザみたいだな、そのセリフ」

「相手もヤクザ者だ。文句はなかろう」

「で、作戦は?」

「……確かこの辺にレンタル倉庫があったな」

 レイはそう言って、車に取り付けられたカーナビを操作する。ほどなくして画面の地図に倉庫の位置が示された。

「ここに奴らを誘い込む。コウ、お前は途中で降りて挟み撃ちだ」

「オッケイ!」

 コウは大きく頷き、着ていた背広を脱ぎ捨てた。

「銃は持っているか?」

「二十二口径の豆鉄砲。予備マガジン無し」

「俺の三十八口径を使え」

 レイはそう言って、リボルバーを取り出し、クルリと回してグリップをコウに向けた。

「確か予備の弾は、そこのボックスの中に――」

 レイがコンソールボックスを指差す。コウは銃を受け取った後、言われた通りにそこを開ける。だがコウの視界に飛び込んできたのは、ドライバーやらナイフやらコルク抜きやらと、あらゆる小物がごちゃ混ぜのカオス空間だった。

「少しは整理しろよ!」

「全部必要な物なんだよ」

 コウは小物をかき分け、目的のものを探す。やがて奥の方にリボルバー用のスピードローダーと三十八口径の弾薬が収められた箱が見つかった。

「ローダー一つだけかよ。まあ無いよりマシだが」

 コウは箱から弾薬を取り出し、スピードローダーにセットしていく。そして銃をズボンに挟み込み、スピードローダーと弾薬箱をポケットに入れる。

「あとこれも持っていけ」

 レイは後部座席に腕を伸ばし、工具箱のようなプラスチックのケースを取り出した。

「何だそれ?」

「スパイクストリップだ。道路に敷いてタイヤをパンクさせる道具だ」

 レイはそう説明をしつつ、コウの足元にそれを置いた。

「インカムも忘れるなよ」

「ポケットに入ってるよ」

「念の為、暗視ゴーグルも――」

「いらねえよ! 遠足に行くんじゃねえんだぞ! 仕舞いには弁当でも持たせる気か!?」

「お前の嫌いなレーションならあるが、まあいい」

 レイはカーナビに表示されている地図を指差し、言葉を続ける。

「この角を曲がったら、車から飛び降りろ。奴らに気付かれるなよ。そこから東に百メートル程進めば目的地だ」

「そこは飛び降りて大丈夫なところなのか?」

「草の生い茂った空き地だ。死にはしない」

 レイはそう言うなり、さらにスピードを上げた。前方を走る車を次々と追い抜いていく。やがて、レイが地図で指し示した交差点が見えてきた。

「準備はいいか?」

 ケースを抱え、コウは頷いた。

 大きな摩擦音を響かせながら、車が交差点に突入する。コウはシートベルトを外し、いつでも飛び降りられるように身構える。

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