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Lawless Hunter  作者: 佐久謙一
第四章 黙示録倶楽部
39/52

4-9

「顔を見せろ」

 レイは銃を向けたまま言う。目の前の人物は言われるままフードを脱いだ。長めのブロンドヘアーが音もなく降り、その人物は軽く首だけ動かして髪を纏めた。

 コウは驚いた様子で相手を見つめる。その人物は美しい顔立ちの少女だったからだ。褐色気味の肌で彫りが深く、おそらく南ヨーロッパ系の血を引いていると見て取れた。

「名前は?」

「……エミリア」

 レイの問いに、少女――エミリアは静かに答えた。レイは銃口を向けたまま、胸元から写真を取り出す。パーカーの人物が映し出されている写真だ。

「これはお前か? 今世間を騒がせている爆弾事件の犯人の写真だ」

「そう。それも私がやった」

「竹本殺害もお前か?」

「えぇ、それも全部私がやったわ」

 レイはまた別の写真を取り出す。クリスが映っている写真だ。

「クリスという男を知っているか?」

 エミリアの視線が一瞬泳ぐ。

「知らないわ。見たこともない」

 レイの眼がすっと細められる。

「竹本の殺害にはどんな凶器を使った? 爆弾の入手先は? 種類は?」

 レイはまくしたてるように質問を繰り返す。

「答えられないか?」

「…………」

 エミリアは沈黙したまま答えなかった。

「まあいい。誰をかばっているのか知らんが、お前の身元を調べれば横の繋がりもすぐに分かる。コウ――」

 レイがコウに視線を送る。

「机にある端末を操作しろ。おそらくそれでロックが解除される」

「分かった。この子はどうするんだ?」

「連れていく。情報を引き出せずとも殺人の現行犯だ。金にはなる」

「なんか変な気分になるから、その言い回しやめろって」

 コウは机に近付き、ノートパソコンを開く。ふと足元を見ると、ドローンのコントローラが二つ転がっているのが見えた。

「一人で二つ操縦なんて器用なもんだな」

 コウはそう呟きながら、パソコンの画面を見る。レイの言った通り、扉を操作するためのソフトが立ち上がっており、画面中央にでかでかと『ロック中』と表示されていた。

「これ押せばいいのか? あれ、何かエラーが出た」

「何やってんだお前は……」

 レイが呆れた様子でコウの方を見る。その瞬間、エミリアの右手がすっと腰の後ろへと伸びる。

 銃声。

「がっ!!」

 エミリアはくぐもった悲鳴を上げながら肩を押さえる。レイは一歩踏み出すと、エミリアの肩を銃創ごと鷲掴みにし、無理矢理後ろを向かせる。エミリアは悲痛な悲鳴を上げながら、そのまま壁に押し付けられる。

「女子供なら撃ってこないと高をくくったか?」

 銃をエミリアの後頭部に突きつけながら、レイは吐き捨てるように言った。そしてエミリアのズボンの後ろに挟み込まれていた銃を取り上げ、後ろに放り投げた。続いてレイはエミリアの身体検査を素早く行う。

 そしてレイの手が胸元に伸びた時、エミリアの手が咄嗟にレイの手を押さえた。レイは突きつけている銃の撃鉄を起こし、低い声で言う。

「手をどけろ。次に妙な真似をしたら頭を撃つ」

 エミリアは荒い息を繰り返しながら小さく唸った。

「……あのさぁ、おっさん。傍から見てるとセクハラ働いてるようにしか見えないんだけど」

 パソコンを必死に操作しながらコウが言った。

「お前はさっさとロックを解除しろ」

「画面の反応が悪いんだよ。これ低スぺのパソコンに無理矢理ソフト入れてるな」

「無闇に何度も操作するな。さぁ、さっさと手を壁につけ」

 レイがエミリアの後頭部を銃で小突く。

「……わ、分かったから。乱暴にしないで」

 エミリアはそっと手を放す。そしてそのまま自分の胸元まで素早く手を持っていくと、服の中に指を差し入れた。

 怪しい動きに、レイはエミリアの肩を掴み振り向かせる。エミリアは不敵な笑みを浮かべながらレイをまっすぐに見据え、そして指を勢いよく引き抜いた。

 エミリアの胸元から何かが外れるような金属音が鳴る。その手に手榴弾の安全ピンが握られているのを認識し、レイの顔が強張る。

「Morire per la liberta!」

 エミリアが叫びながらレイの服を掴む。レイは険しい表情でエミリアの頭を即座に撃ち抜き、その腹を蹴り飛ばした。

「コウ、伏せろ!」

 レイは机に向かって走り、机を乗り越えつつコウの襟首をつかんで伏せさせる。それと同時に耳をつんざくような轟音が鳴り響いた。

 打ち付けた後頭部の痛みと耳鳴りにコウは顔を歪ませる。隣で伏せていたレイは上体を起こし、机の向こうの様子を伺う。コウも首だけ持ち上げるが、天井にまで飛び散った肉片が視界に入り、さらに机の奥まで確認する気にはなれなかった。

「手榴弾を胸元に仕込んでいたようだな。無理矢理にでも手足を拘束しておくべきだった」

 レイは小さく首を振りながら言った。

 その時、間の抜けたビープ音と共にパソコンの画面に表示されている文字が『ロック解除』に切り替わった。レイは大きくため息を吐きながらパソコンを閉じる。

「……解除されたようだ。行くぞ、コウ」

 そういうレイの声はどこか疲れた様子だった。

 部屋から出た二人は、フレディとジェイクの元へ向かった。二人は床に大の字で寝転がり、天井をぼーっと眺めていた。フレディのほうは特に顔色が悪い。

「おい、まだ生きてるか? 終わったぞ」

 レイが声をかける。ジェイクが顔をしかめながらゆっくりと上体を起こした。

「なんかすげえ爆発音が聞こえたが大丈夫だったのか?」

「あぁ、犯人が自爆した。もっと慎重に行動するべきだった」

 レイはため息を吐きながらフレディの顔を覗き込む。そして首元に手を当てて脈を測る。

「脈が弱まっているな。意識はあるか?」

 フレディは浅い呼吸を繰り返しながらレイを睨む。

「あぁ、あるぞ。こんなところで死んでたまるか。俺は生きてレイチェルに会いに行くんだ」

「だからあのアバズレはやめとけって」

「おい、ジェイク。いくらお前でもレイチェルの悪口は許さねえぞ。次に何か言ったら、俺のレイチェルへの熱い想いを手前にぶっかけてやる」

「まだまだ元気そうだな」

 二人のやり取りに、レイは呆れたように息を吐く。

「だが急いだほうがいいな。ジェイク、お前の車は上の駐車場か?」

 ジェイクは頷く。レイも小さく頷くと、コウの方に振り替える。

「コウ、その椅子を持ってこい。フレディを座らせて担架代わりにする。急いで運ぶぞ」

 コウは言われた通り、通路の隅に置いてあった椅子を持ち上げる。

 その時、コウのスマートフォンがメッセージの通知音を告げる。椅子をフレディの近くに置きながら、スマートフォンを取り出してチェックする。

「お、エミカからメッセだ」

「確認は後にしろ」

 レイがフレディを椅子に乗せながら言う。だが、コウはスマートフォンを眺めたまま微動だにしない。

「コウ」

「おっさん」

 コウがレイの顔を見る。その顔は青ざめていた。

 コウのただならぬ様子に、レイはすっと目を細める。

「何があった?」

 レイの問いに、コウは無言でスマートフォンを渡す。画面にはメッセージアプリのトークルームが表示されていた。相手はエミカだ。

 そしてそこには短いメッセージと共に添付された写真が送られていた。


『俺達を追うな』


 その写真にはガムテープで縛り上げられ、車内に転がされているエミカの姿が映し出されていた。

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