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「くたばりやがれ! ポンコツが!!」
けたたましい銃声と共にフレディのサブマシンガンが火を噴いた。ばらまかれた弾丸が壁や天井に次々と穴をあけていく。
だが弾はドローンに一発も当たらず、ドローンはそのまま通路を横切って姿を消した。
「畜生! 待ちやがれ!」
一瞬で弾を撃ち尽くしたフレディは、マガジンを交換しながら走り出す。その後をジェイクも追う。
「待て! あの動きは陽動かもしれん!」
二人の背中に向かってレイが叫ぶ。その言葉を聞いて、ジェイクは慌てて足を止めるが、フレディは聞く耳を持たずに走り続ける。
「フレディ! 止まれと言っている!」
「うるせえ、コンドーム野郎! 俺に指図すんじゃねえ!」
フレディはそう叫びながら、通路の曲がり角まで近づくと、ドローンの消えていった方向を覗き込む。
「フレディ!」
ジェイクが叫ぶ。
「何だよ!? 早く追わねえとまた見失う――」
足を止めかけたフレディの言葉は、けたたましい銃声によってかき消された。
突如沸き上がったマズルフラッシュが店内を明るく照らす。その光によりテーブルの下に潜む、もう一台のドローンが浮かび上がっていた。
轟音によって床や壁が破壊される音と共に、フレディの悲鳴がこだました。弾丸が次々と脚を貫いていき、フレディはその場に崩れ落ちる。
「フレディ!!」
ジェイクは相棒の名を叫び、ドローンに向かって走りながら銃の引き金を引いた。
一斉に吐き出された九ミリ弾が、ドローンのあらゆる部品を破壊していく。一瞬で制御を失ったドローンは周囲に弾薬をバラまきながら地面を激しく転がっていく。
ジェイクは雄たけびを上げながら、残りの弾丸全てをドローンに叩き込んだ。やがて弾を撃ち尽くしたジェイクは、震えた声を上げながら傍らの相棒の元に駆け寄る。
「おい……おい、フレディ! しっかりしろよ!!」
フレディは壁に寄り掛かるようにして座り込んでいた。腹部から下半身にかけて真っ赤に染まっており、肩で息をしている。ジェイクは泣きそうな顔でフレディのかたわらに膝をつく。
「フレディ、大丈夫か? しっかりしろ! すぐに病院に連れていってやるから――」
「ジェイク! まだ終わっていない!」
背後からのレイの声に、ジェイクは、はっとした表情で顔を上げる。
プロペラ音がまだ鳴り響いていたのだ。
慌てて手持ちの銃からマガジンを抜き取るが、ほぼ同タイミングで通路の角から先程通り過ぎていったドローンが再び姿を現した。
「ジェイク! フレディをボックス席まで引っ張れ! コウ、二人を援護しろ!!」
レイが叫ぶと同時に、レイとコウはドローンに向けて銃をぶっ放した。それに呼応するようにドローンの銃も発射される。
ジェイクは銃を放り捨て、フレディの襟首をつかむと、必死な形相でボックス席まで引きずっていく。しかし完全に隠れきる前にジェイクが悲鳴を上げる。そして肩を抑えながらその場に尻餅をついた。
コウは吠えながらがむしゃらに引き金を引いた。弾丸はドローンのプロペラや本体を貫き、やがてドローンは派手な音を立てながら地面に叩きつけられた。
「無事か!?」
プロペラ音が完全に消えたことを確認したレイは、ジェイクの元に歩み寄る。ジェイクは肩を押さえながら顔をしかめていた。
「……あぁ、俺は大丈夫だ。ちょっと肩に当たっただけだ。それより――」
ジェイクは傍らに倒れているフレディを見下ろす。フレディは血に染まった姿で浅い呼吸を繰り返している。
「畜生……いてぇよぉ……」
フレディは絞り出すような声で言った。
「ジェイク……俺は……もう、駄目だ……」
「泣き言を言ってんじゃねえよ!」
ジェイクの泣きそうな顔を見ながら、フレディは目をゆっくりと閉じる。
「どうか……俺の最後の頼みを……ニューヨークにいる……俺のガールフレンドに……愛していると……伝えてくれ」
「レイチェルのことか? あいつ新人のケビンと浮気してるぞ」
「何ぃ! あの野郎、俺のレイチェルに! それじゃあ代わりに鉛玉ぶち込んできてくれ!!」
「自分で行けよ、それくらい」
二人のやり取りを呆れた表情で聞き流しつつ、レイはフレディの容態を見る。
「出血はひどいが、急所は外れている。急いで病院に運べば何とかなるだろう。一応これで止血しておけ」
そう言って、ポーチから包帯を取り出し、ジェイクに手渡す。
「村山がいたのはこの奥か?」
レイは通路の奥を顎で示す。ジェイクは静かに頷く。
「あぁ、通路の突き当りだ。でかい扉だからすぐに分かるぜ。ドローン野郎もそこに隠れているはずだ」
「分かった。少し待ってろ。すぐにロックを解除してくる。いくぞ、コウ」
レイはそう言って通路を進み始めた。コウもその後を追う。
「もうドローンは飛んでこないかな?」
コウが小声で尋ねる。
「一気に攻勢を仕掛けてきた辺り、もう種切れかもしれんが、警戒はしておけ」
二人は足早に通路を進む。やがてジェイクが言っていた大きな扉が見えてきた。レイは扉に近付き、耳を澄ます。
「中にいるな。構えろ」
コウは扉の脇に張り付く。それを確認するとレイは銃を構え、扉を一気に蹴破った。
扉が開かれ、二人は中の様子を素早く確認する。まず目についたのは大きなソファに倒れこんだ血まみれの男の死体だった。胸にいくつもの穴が空いており、だらんと口を開けたまま虚空を見つめている。
「あいつが村山か……」
コウはそう小さく呟きながら、周囲に目を凝らす。様々な書類が納められた棚やキャビネットがずらりと並んでおり、床には大量の薬莢と、村山の護衛らしき男の死体が転がっている。部屋の奥には仕事用の机があり、元々机の上に置いてあっただろう小物が床に散らばっている。
「観念して大人しく出てこい! 殺しはしない!」
部屋には入らず、レイが叫ぶ。その銃口は机の方に向けられている。しばらくして机の奥からゆっくりと人影が立ち上がった。
「――分かった。降参する。撃たないで」
両手を上げながらフードを被った人物が姿を現す。やや小柄のその人物は、先程車内で見た写真と同様の長袖のパーカーを着ていた。




