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Lawless Hunter  作者: 佐久謙一
第四章 黙示録倶楽部
35/52

4-5



 レイの運転する車は大通りから少し離れた場所にある大きなビル――その地下駐車場で止まった。このビルは飲食店や会社の事務所などが入っている普通のオフィスビルで、地下一帯は全て駐車場エリアになっている。表向きは。

 レイは車を降り、まっすぐ歩いていく。その後をコウも無言でついていく。やがて二人は駐車場の隅にある鉄製の扉の前に立った。扉の脇にはこれ見よがしに監視カメラが設置されている。

「ここが入口? 何か会員証とかいるんじゃないの?」

「会員証、もしくは会員の同伴が必要だ。あいにくそのどちらも持ち合わせていない」

 レイはそう言って、扉を乱暴にノックする。

「だが一連の事件に心当たりがあるのなら、身の安全の保障を条件に交渉できるかもしれない。とりあえず向こうがどう出てくるかだな」

 レイは腕を組んで反応を待つ。しかしいくら待っても何のリアクションも返ってこなかった。

「まだやってないんじゃないの?」

「いや、この時間なら村山は店にいるはずだが」

 レイはドアノブに手をかける。鍵がかかっていると思っていたが、扉は何の抵抗もなくすっと開いた。レイが顔半分だけ出し、中の様子を伺う。

「……コウ、残弾は?」

 突然レイがそう尋ねる。コウは眉をひそめながら扉の奥を覗き込み――驚きに目を見開きながらホルスターに手をかけた。

 扉の向こうには小さなカウンターがあり、右手にはさらに地下に降りるための階段が設置されている。そしてカウンターにつっぷすようにしてスーツの男が倒れている。その男から床一面に広がる真っ赤な海を見れば、既に事切れているのは明白だ。

「至近距離から胴体に五発。薬莢から見て三十二口径だな」

 死体の様子を調べながらレイが呟く。コウはホルスターから銃を抜き、自分の手持ちの弾薬を調べる。

「二丁の銃に十六発。予備の弾が三十二発だ」

「銃に六発。ポーチに三百六十発」

「どんだけ持ち歩いてんだよ、おっさん」

「用心に越したことはない。お前ももう少し余分に持っておけ」

 レイはポーチを一つ取り外し、コウに放る。

「ヤクザの仕業?」

 受け取ったポーチを腰のベルトに取り付けつつ、コウは尋ねる。

「分からん。どちらにせよ死体の様子から見て、殺されてからそれほど時間が経っていない。まだ中にいる可能性が高いだろう。用心しろ」

 そう言ってレイは銃を抜きつつ、階段の扉を開く。階下に誰もいないことを確認すると顎でコウに合図する。コウも静かに頷き、銃を構えながらレイの後をついていく。二人は足音を立てないようゆっくりと階段を降り、入口らしき分厚い扉を開けて中に入った。

 二人は足を止め、店内を軽く見渡す。中は全体的に薄暗く、大理石ばりの床と赤を基調とした壁紙に包まれた空間だった。細い通路が左右に伸びており、壁に沿うように薄いカーテンに仕切られたボックス席が並んでいる。通路は緩やかなカーブになっていて奥まで見えない。

 しばらく周囲に視線を送った後、レイは肩越しに振り返り、コウにハンドサインを送る。

「何だっけ、そのサイン?」

「……周囲を警戒しながら付いてこいだ」

 レイが呆れたように小声で言う。

「それと撃鉄は起こすな。ヤクザ者の小競り合いならば不用意に参加する必要はない」

 レイがゆっくりと歩き始め、コウはその背後をカバーする形でついていく。テーブルや床には、客や従業員らしき人物が床に血だまりを作って倒れていた。その見境の無い所業に、コウは吐き気を覚えた。

 カーテンを静かに開き、ボックス席一つ一つ確認しながら進んでいく。薄暗さと障害物の多さで視界が悪く、おいそれと前に進めない状態だ。

 そうしてボックス席を三つほど通り過ぎたところで、レイは足を止めた。何事かとコウも足を止め、レイの視線の先に顔を向ける。

 そこで彼らと目が合った。

 そこには二人の男がいた。片方は白いスーツを着ていて、猛禽類のようなぎらついた眼をこちらに向けている。もう片方は対照的で、黒のスーツに女受けの良さそうな綺麗な顔立ちをしていた。そして二人とも驚いた様子で目を見開き、こちらを見つめている。

 急な遭遇に、レイとコウも一瞬固まる。そして彼らの手にサブマシンガンが握られていることに気付くと同時に、二人は咄嗟に男達に銃を向けた。

「動くな!」

「銃を捨てろ、殺人鬼共!」

 その動きに呼応するように二人の男もレイとコウに銃を向ける。

「何だ手前ら! 奴らの仲間か!?」

「銃を捨てやがれクソッタレ!」

 互いにほぼ同時に叫び、銃を向けあう。

「銃を捨てろと言ってんだよ!」

「手前らサツか!? ここの残党か!? どっちだ、コラ!」

 コウが叫びながらもう一丁銃を抜き、それぞれ二人の男に向ける。負けじと白スーツの男も叫びながら片手で持ったサブマシンガンでレイを狙いつつ、ズボンに挟み込んだ銃を抜き、コウに向ける。

 一触即発の張り詰めた空気の中、それぞれの獲物を構えて睨み合う。いつ撃ち合いが始まってもいいように、コウは全神経を相手の動きと指先に集中させる。

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