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Lawless Hunter  作者: 佐久謙一
第四章 黙示録倶楽部
32/52

4-2

 二人は互いの顔を見て、静かに頷きあう。フレディは大きく深呼吸すると、出来るだけ明るい調子で電話に出た。

「ハロ~? どうしたんですかボス~? 次の配信が待ちきれないんですか~?」

『……う、うぅ、フレディ……』

 電話から聞こえてきたのはむせび泣くボスの声だった。

「ど、どうしたんですか、ボス! 何かあったんですか!?」

 フレディはわざとらしいほどに驚いた演技をしつつ尋ねる。ボスは嗚咽を漏らしつつ言葉を続ける。

『……フレディ、これは組織の中でも誰も知らないことだ。それを今からお前に伝える。これは絶対に他言無用だ』

「ちょっと待ってください、ボス。今、ジェイクも隣にいるんですが」

『……分かった。ジェイクまでなら許す。二人とも心して聞け』

 フレディは返事をしつつ通話をスピーカーに切り替える。

『実は俺には娘がいる』

「えっ、ボスに娘が!?」

 フレディとジェイクは無駄に声を張り上げて驚くふりをする。

『そうだ。妻は娘が小さい時に病気で亡くなってしまって男手一つで育ててきた。そして娘は日本に留学させてたんだ。真面目に育ってほしくてな。娘には俺がギャングをやってることも教えていない。だが――』

 ボスの嗚咽が一段と激しくなる。

『その娘が死んでしまったんだ! 死因はドラッグと聞いたが、真面目なあの子がそんなものに手を出すはずがない! きっとどこぞの糞野郎に変なことを吹き込まれたんだ!』

 フレディはチラリとジェイクを見る。その視線を受け、ジェイクはぶんぶんと首を横に振る。

「元々ジャンキーだったぞ、あのアバズレ」

『何か言ったか!?』

「いえいえ、ボス。テレビの音ですよ。どうぞ続けてください」

『テレビなんか見てんじゃねえ! まあいい。フレディ。ジェイク。お前達に頼みがある。俺の娘は賢い。だから自分からドラッグに手を出すなんて考えられない。きっと娘に何かを吹き込んで薬漬けにした糞野郎がいるはずだ。そいつを見つけ出してこい! 今やってるシマ荒らしの件は後回しでいい!』

「お、落ち着いてください、ボス。もしその相手がカタギの野郎だったらどうするんですか?」

『どうもこうもあるか! カタギだろうが、警察だろうが、四大マフィアだろうが関係ねえ! どんな手を使ってでも手前の配信に引っ張り出してこい! そして俺の目の前で断末魔を聞かせろ! 分かったな、フレディ!!』

 ボスはそれだけまくしたてると、通話を切った。

「…………」

 フレディとジェイクは同時にため息を吐き、互いの顔を見る。

「……どうする、フレディ」

「……どうするったって」

 フレディは腕を組んで考え込む。

「適当に売人とっ捕まえて突き出せば納得してくれるか?」

「いや、それはまずいな。理由もなく売人さらったりしたら、今度は俺達がシマ荒らしってことになる。組織間の抗争が起きるぞ」

「それじゃあカタギの奴を狙うか?」

「それはもっとまずい。警察が動くし、下手すりゃ俺達賞金首だ」

 フレディは小さく唸る。ジェイクも顎に手をやり、静かに考え込む。しばらくしてフレディがはっとしたように顔を上げた。

「良いこと思いついたぞ。今俺達が追ってるシマ荒らしが、クスリも扱ってたってことにすればいいんじゃねえか?」

「ん? なるほど、悪くないな。うちのシマじゃないが、最近クスリでシマを荒らしてる奴もいるらしいし」

 フレディはぽんと手を打つ。

「それだ! そいつらと同一組織ってことにしちまおう!」

「いいねえ、冴えてるじゃねえかフレディ! 一石二鳥って奴だな!」

 二人は互いに喜びの声を上げながら手を叩きあうと、食事の残りをさっさと片付けた。そして食事を終えたフレディは先程まで寝ていた部屋に戻り、床に散らばっていたスーツを拾い上げる。その間、ジェイクは食器をまとめて台所に持っていく。

「銃は?」

「隣の部屋」

 ジェイクが顎で扉を示す。フレディは背広を羽織りながらその部屋に入る。そこは小さな物置部屋らしく、壁一面に大量の銃がかけられていた。

「もうちょっとでかい銃はねえのか?」

 自動拳銃の一つを手に取りながらフレディが尋ねる。

「さすがにショットガンとかは手に入らなくてな。サブマシンガンくらいならあるぜ」

「アサルトライフルも無しか。まあ何とかなるか」

 フレディはそう言って、ショルダーホルスターを取り付け、左右に銃を収める。そして小型サブマシンガンにマガジンを装填するとスライドを引く。

「おい、そのハンドガン持っていくなよ。お気に入りなのに」

 ジェイクが部屋の入り口から顔を出しつつ、そう言った。

「何だよジェイク。お前、昔オーストリア製は糞だって言ってたじゃねえか」

「糞なんて言ってねえよ。見た目が嫌いだって話だ。つうか、それ返せって。ほら、お前の好きなアメリカ製のレアな奴貸してやるから」

「それ不良出まくりで、一年で生産終了した奴じゃねえか。何で持ってんだよ」

「こういうのもあるぜ。中国製の奴で三発撃つとスライドが爆発するって代物だ」

「手前、俺を殺したいなら、回りくどいことしないで、今すぐかかってこいや! 受けて立ってやる!」

 そんなやり取りをしつつ、準備を終えた二人は、一階のジェイクの車に乗り込んだ。エンジンがかけられ、部屋全体がぶるぶると震える。

「目的地はどこだっけ?」

 フレディが尋ねる。ジェイクはカーナビを操作しながら答えた。

「エクストラゲインって会社の奴だろ? 確か名前はムラヤマ。裏で風俗店を経営してる」

「カタギのくせに裏稼業に手を出すとは見下げた野郎だ」

「ま、そういう時代ってことだ」

 軽快なエンジン音と共に車が発進する。外はまだ明るく、セミの耳障りな鳴き声がけたたましく鳴り響いていた。

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