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Lawless Hunter  作者: 佐久謙一
第零章 D・P・ダブルダウン
3/52

0-3

 コウは顔を歪め、そう呟いた。

 ホテルの前方には巨大なパーキングエリアが広がっている。ダニエルが車を使用して逃げようとするならば、まだ駐車場内にいるはずだ。

 コウは駐車場へ走る。逃げ惑う客達の中から必死にダニエルの姿を探す。

 その時、けたたましいエンジン音を立てて急発進する、一台のスポーツカーを視線でとらえた。運転席に目を凝らし、必死の形相でハンドルを握るダニエルを確認する。

「おっさん! 青のスポーツカー! 今駐車場を出ようとしている」

 インカムにそう叫ぶなり、コウは駐車場の出口に向かって走った。ダニエルの運転するスポーツカーは歩行者をも跳ね飛ばす勢いでまっすぐ出口に向かっている。

 コウは出口までの最短距離を全力疾走する。だが、相手はスポーツカー。その桁違いのスピードにより一瞬で距離を離され、車は既に出口を抜ける寸前だった。

 その瞬間――突然、空気を震わすほどの巨大な破裂音が辺りに鳴り響き、スポーツカーのタイヤが弾け飛んだ。

 それと同時に、ダニエルの車が制御を失った。激しく回転しながら道路を滑っていき、そのまま向かいのホテルの壁に激突した。

『止めてやったぞ。急いで回収しろ』

 インカムからの報告にコウは歓喜の声を上げる。

「ナイス狙撃だぜ、おっさん!」

 コウは停止したダニエルの車に走り寄る。事故車の周りに集まっていた野次馬をかき分け、エアバッグに取り囲まれたダニエルの姿を確認する。ダニエルは気を失っていた。

 念の為にスタンガン警棒を一発お見舞いする。一瞬ダニエルの体がビクンと跳ねたが、それ以外に特に反応は無かった。

「おい、あんた何をやっているんだ!?」

 コウの行動に周りの野次馬が声を上げる。コウは相手にせず、急いでダニエルを車から引きずり出し、肩に担ぎ上げた。見た目通り軽かった。コウはそのまま脱出用の車が止めてある場所へ駆け出した。

「いたぞ、あそこだ!」

 背後から叫び声が聞こえてくる。おそらくダニエルの護衛達であろう。

 コウは一目散に走り、路肩に停めてあった脱出用の車である大型ミニバンに駆け寄る。運転席の扉を開け、後部座席にダニエルを放り込む。そしてフロントガラスに貼られた『駐車違反』と書かれた貼紙を破り捨て、運転席に乗り込んだ。

 背後から数発の銃声――それと同時にコウはアクセルを踏み込んだ。けたたましいエンジン音とともに車が急発進する。

「下には、あとどれくらいで着く?」

 コウは運転しながらインカムに尋ねる。そして少し走った先のビルの前で車を止めた。

「こっちはもうビルの下だ」

『あと五秒だ』

 インカムからの短い返答。コウはバックミラーに視線を送り、後方を確認する。何台かの車が猛スピードでこちらに向かってきていた。追手の車に違いない。

「おっさん早く。怖い人達が接近中。健康のために歩いて帰るってのはどうだ?」

『待機しろ!』

 そう返答が来るやいなや、ビルの入口から相棒が飛び出してくるのが見えた。わきに狙撃銃とノート端末を抱えている。

 助手席側の扉を開け、滑り込むようにして相棒が乗り込んでくる。と、同時にコウは車を発進させた。アクセルを限界まで踏み込み、次々と車を追い抜いていく。しかし、それに追従するように追手の車もぴったりとくっついてきていた。

「あれは振り切れそうにないな」

 後方に顔を向けながら、相棒が呟く。そして手元の狙撃銃のボルトをスライドさせ、薬莢を排出させた。

「俺が構えたら一秒、車体をまっすぐ安定させろ」

 相棒はそう言って、助手席の窓から身を乗り出してライフルをまっすぐ構える。コウは言われた通り、車体をまっすぐにする。

 きっかり一秒後、ライフルからの銃声が鳴り響いた。それと同時に、追手の車のタイヤが弾け飛び、コントロールを失って激しくスリップするのをバックミラーで確認した。

 相棒はライフルの排莢口を車内に向け、ボルトをスライドさせる。薬莢が排出され、相棒の足元に転がる。

「一秒」

 相棒が再びライフルを構えてそう呟く。コウは車体を安定させる。

 再び銃声。銃弾は再び追手の車のタイヤを打ち抜いた。相棒は車内に薬莢を排出させ、再びライフルを構えた。

「一秒」

「おっさん、信号!」

 コウは叫んだ。目の前の信号が赤になっていたからだ。

「走り抜けろ」

 そう言って相棒は車内に体を戻す。コウは言われた通りにアクセル全開のまま交差点に突入した。左右から飛び出してきた車にぶつかりそうになりながらも、間を縫うようにして何とか走り抜ける。追手の車はまだぴったりとついてきている。

「あぁ、今の絶対カメラに取られたわ」

 コウは頭をぼりぼりとかきむしりながらそう呟いた。相棒は無言のまま再びライフルを構える。

「一秒」

 コウは車体を安定させる。一秒後、銃声。最後の追手の車のタイヤが弾け飛び、そのままガードレールに突っ込んでいった。

「仕舞いだ」

 相棒は車内に体を戻すと、大きく息を吐いた。今の車で追手は全滅したようだ。

「いえあ、うまくいったな、おっさん! ヘイ、ハイタッチハイタッチ」

 コウは左手を上げ、そうはしゃぐ。相棒は足元に転がる薬莢を拾い集め、こちらをジロリと睨んだ。

「コウ。お前、俺が何て言ったか覚えているか? 待機していろと言ったはずだ」

 相棒のその言葉にコウはバツの悪そうな顔を浮かべた。

「まぁ、確かによぉ、突っ走ったのは悪かったよ。でも結果オーライじゃねえか。グチグチ言うのは無しにしようぜ」

 コウは肩をすくめながら続けた。

「もし最初の作戦のままだと、俺は未だにダニーボーイのケツを眺めていたままだし、おっさんも寒空の下で震えていたんだぜ。それが今や、ダニーボーイも捕え、帰り道の道中だ。最高の時間短縮じゃねえか。時は金なりって奴だぜ」

 コウの言葉に相棒はチラリと背後のダニエルを見やる。ダニエルは、ぐったりと横たわったままピクリとも動かない。

「生きているのか、コイツは?」

「多分」

「何で拘束もしてねえんだ」

 相棒はグローブボックスを開き、中からケーブルタイを取り出す。そして後部に身を乗り出し、ダニエルの手足を縛りあげた。

「全く。コウ、お前は急いては事を仕損じるという言葉を知らないようだな」

 体を戻しつつ、相棒がため息交じりにそう言った。

「おいおい、俺は殺されかけたんだぜ。心配するセリフの一つくらい言ったらどうなんだよ」

「自業自得だ。二、三発ぶち込まれていたほうが良かったんじゃないのか?」

「善は急げだぜ、おっさん。年食うと時間を悠長に使いだすから困ったもんだぜ」

「急がば回れだ。全く、四発も使ってしまった」

「愚痴ばっかり言ってると禿げるぜ」

「だったら俺に愚痴を言わせるな」

 相棒は空薬莢を手元で転がしながら、大きくため息を吐いた。そんな相棒に気まずさを覚えつつ、コウは無言のまま帰りの道を走り続けた。

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