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Lawless Hunter  作者: 佐久謙一
第三章 裏社会見学
25/52

3-2

「何かお作りしましょうか?」

 コウに気付き、バーテンダーが声をかけてくる。コウはバーカウンターにもたれかかりつつ、懐から二枚の写真を取り出した。マリアとクリスの写真だ。

「実は人を探していてね。この二人のどちらかをこの辺で見なかった?」

 コウの言葉を聞いて、バーテンダーの表情が消える。そして冷たい視線をコウに向けてくる。

「すみませんが、そういったものは全てお断りしています」

 バーテンダーの反応に、コウは息を吐いて言葉を続ける。

「この店でトラブル起こそうって訳じゃない。ただこいつらが店を出入りしていたかどうかを知りたいだけだ」

「何度も申しますが、そういった質問は受け付けておりません」

 無表情に返すバーテンダー。聞く耳持たずといった様子にコウは小さく唸る。そして自分の胸元を軽く指差した後、懐から札束をちらりと覗かせた。それを見て、バーテンダーの表情が一瞬固まる。

「ちゃんと注文するからよ。あんたは独り言を呟いてくれるだけでいい」

 バーテンダーの視線が右往左往する。やがてにっこりと微笑みつつ、コウに顔を寄せてくる。

「お客さん。ご注文は?」

 その反応に、コウもニヤリと口元を緩めつつ、バーテンダーに顔を寄せる。

「そうだな。オススメは?」

「……男のほうは見たことないが、女の子のほうは店で見かけたことがある。ただ似たような恰好の娘は多い。俺が見た子がその写真の子とは限らないよ」

 バーテンダーは早口で言った。その言葉にコウは小さく頷きつつ、懐から取り出した札束を手早く渡す。

「じゃあパンティー・ドロッパーちょうだい」

「かしこまりました」

 バーテンダーは深々と頭を下げつつ、注文のドリンクをテーブルに置いた。透き通ったピンクのドリンクを一口すすりながら、コウは店内を歩き回る。

 店内の隅やトイレの前などにドラッグの売人らしき人物が立っているのが見えた。コウは彼らに近付き、同様に聞き込みを行う。だが、どの売人も明らかにこちらを警戒した様子で、大した情報は得られなかった。

「……情報はこんなものか。戻るか」

 一通りの人物に話しかけた後、コウは呟く。そしてエミカの待つボックス席まで足を進める。

 ボックス席に近付くと、エミカに声をかけている一人の男が目に留まった。

「ねえねえ、君一人? 良かったら一緒に踊らない?」

 男はありふれたナンパ文句を口にしていた。エミカは無言のままうつむいており、男に顔を向けようともしていない。明らかにナンパを迷惑に感じている様子だ。

「こういうところ、慣れてないの? 色々教えてあげるよ」

 ナンパ男はそんなエミカの様子は意に介さずしつこく誘っている。やがて男の手が伸び、エミカの肩に触れる。その瞬間、エミカは意を決したように顔を上げ、男をきっと睨みつけた。

「手前、さっきからしつこいんだよぉ! 私ぃ、連れと来てるからぁ!」

 エミカは男の手を払いのけながら、けだるそうな口調で言った。エミカの返しが予想外だったのか、男の顔が一瞬で固まる。

「え、へぇ……そう、なんだ」

 男は引きつった笑みを浮かべながらそそくさと離れていく。立ち去っていく男の背中を見届けながら、エミカは小さくガッツポーズをしている。

「…………」

 コウは一部始終を呆れた顔で眺めていた。そしてエミカの背後にゆっくりと歩み寄り、声色を変えて話しかけた。

「ハイ、彼女。ずっと一人で退屈そうだね。何か一杯奢ろうか?」

 コウのナンパ文句を聞いて、エミカは大きくため息を吐く。そして髪をかき上げながら振り返ると、コウに冷たい視線を向ける。

「他を当たってくださらない? ワタクシ、連れがいるもので――」

 コウの姿を認識し、エミカの動きが停止する。コウは苦笑いを浮かべながら、そんなエミカを見返す。

「……さっきから何やってんだ、お前」

 コウの言葉に、エミカは薄暗い部屋でも分かるほどに顔を真っ赤に染めた。

「……いや、その、もしかして知り合いがいたらまずいから、こう、キャラとか変えた方がいいかなって思って――ていうか、ずっと見てたの!?」

「最後のキャラは中々面白かったぞ」

 コウは笑いながら、エミカの向かいに座った。エミカは両手で顔を覆い、うつむいている。

「……お願い、今すぐに忘れて」

「ま、安心しろ。ハンターの守秘義務は絶対だ」

 コウはグラスを煽りながらエミカに言った。エミカは顔を上げ、すっと目を細める。

「……それよりそっちの調査はどうなったんですか? ていうか何飲んでるんですか?」

「ただのカクテルだよ。この店は飲み物の値段が安くて人気なんだ。同じのでも頼むか?」

「未成年なので飲めません。飲みません」

 エミカはきっぱりとした口調でそう言った。コウは小さく息を吐くと、懐から煙草を一本取りだす。

「マリファナの試供品配ってたけど、やる?」

「ダメ、絶対!!」

 エミカは噛みつかんばかりの勢いで怒鳴る。その様子に、コウは肩を揺らして笑う。

「今時珍しい真面目ちゃんだな。まあ、真面目なのはいいことだ。今のご時世、捕食者がそこら中で甘い誘惑をバラまいてるからな。最後の防波堤になってくれるのは自分の意志だ」

 コウはそう言いながら、懐から巻き煙草やビニールの小袋に入った白い粉、小さなプラスチックに入った色付きの液体など、怪しい代物を次々とテーブルに並べていく。

「……何ですか、それ」

「ドラッグの売人に話を聞くついでに色々買ってきたんだ。この巻き煙草は有名だな。マリファナだ。この白い粉はコカイン。こっちの小さいケースは電子煙草用のカートリッジに薬品を入れたリキッド型。分類的には危険ドラッグだな」

 コウの説明を聞いて、エミカは露骨に顔をしかめる。それに構わずコウは説明を続ける。

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