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「当たり前だ! こんなオークみたいな面した奴が何人もいてたまるか!!」
その写真に写っている大男、それは彼らの所属するギャングのボス、その人だった。フレディの言葉に、ジェイクは両手で顔を覆い、その場に座り込んだ。
「よりによってボスの娘を死なせちまうなんてよぉ……。勘弁してくれよ……」
「勘弁してほしいのはこっちだ! 今日俺はこいつのモンスターを見せつけられながら拷問やってたんだぞ! こいつの顔で思い出しちまったじゃねえか!」
「別にそれくらい問題ないだろ? このままじゃ次の拷問配信の主菜は俺ってことになっちまう!」
ジェイクは泣きそうな表情でその場に跪き、両手を組む。
「頼む、フレディ。俺を助けてくれ! 今まで色んな修羅場を一緒に潜り抜けてきたじゃねえか!」
ジェイクの言葉にフレディは眉根を寄せながら唸る。やがて、目を閉じ、覚悟を決めたように息を吐くと、ジェイクの肩を力強く叩いた。
「当たり前だ、ジェイク! 俺がお前を見捨てる訳ねえだろ! 俺達は地獄の底まで一緒だ!」
フレディの力強い発言に、ジェイクは目に涙を浮かべ、何度もありがとう、と小さく呟く。そんなジェイクに、フレディは力強く頷きながら、ハグをする。
「よし、さっそく行動だ。さっさとこの死体を捨ててこよう。車を持ってくる」
フレディは懐から車のカギを取り出す。ジェイクもゆっくりと頷く。
「あぁ、そうだな。でもどこに捨てる?」
「この女を引っ掛けたクラブの裏でいいだろ。この女はクスリをやって勝手にくたばったんだ。その場所が、お前の家からクラブの裏口に変わるだけだ」
「良いアイデアだ。完全な事故として処理できるわけだな」
「だからその財布は戻しとけ。強盗扱いにされるかもしれん」
「こいつが付けていた、この高そうな時計も?」
「当たり前だ! 相変わらず手癖悪いな!」
ジェイクは立ち上がり、冷蔵庫を開けて財布と時計を元の場所に戻す。フレディもガレージシャッターを開け、足早に車に乗り込んだ。
「……ふぅ、一時はどうなることかと」
冷蔵庫を閉めたジェイクはほっと安堵の息を漏らす。フレディの運転する車がこちらにバックで近付いてきている。
そして車はそのまま冷蔵庫に激突した。
「おいいいい、何やってんだよ! 車も冷蔵庫も買ったばっかりなんだぞ!」
車がわずかに前進し、停車する。そして全く悪びれた様子もなくフレディが降りてくる。
「うるせえ! 邪魔なんだよ、その冷蔵庫! 車庫のど真ん中に置きやがって! だいたい何でこんなところに冷蔵庫置いてんだよ!」
「いや、それは女の死体をすぐに車に乗せられるように……」
「手前は高層ビルの屋上にでも住んでんのか? 二階から運べばいいだけだろうが!」
フレディの言葉に、ジェイクは一瞬固まり、顔を冷蔵庫、階段、そしてフレディの順に向ける。
「それもそうだな。何で俺、こんな重たいもの必死に下まで運んだんだ?」
「知るかよ!! もういい、さっさと運ぶぞ」
フレディはそう言って、車のトランクを開け、冷蔵庫から少女の死体を担ぎ上げる。ひんやりとした死体に顔をしかめつつ、二人がかりでトランクに押し込んだ。
ジェイクとフレディの乗せた車は目的のクラブ前に到着していた。狭い路地の奥まった場所にあるクラブ『マウンテンゴリラ』。小箱だが二十四時間営業で、飲み物の値段も三百円からということで、昼間だというのに多くの人で賑わっている。
「よし、あそこに捨てよう」
ジェイクは店の近くの路地を指差し、そう言った。深夜営業の店ばかりなのか、周囲はシャッターの降りた店ばかりであり、クラブの前とは打って変わって閑散としている。
二人は周囲を見渡し、人がいないことを確認すると、車から降りて素早くトランクから死体を抱え上げる。そして地面にゆっくり寝かせると、そのまま急いで車に乗り込んで発進させた。
二人は何度も後方を確認しながら、遠ざかっていく死体を見る。そして角を曲がり、死体が見えなくなると、二人そろって大きく息を吐いた。
「フレディ、マジで助かったよ。大きな借りができたな」
「……この借りはでかいぞ。というか何か疲れたぜ。ちょっとどっかでひと眠りさせてくれ」
「おう、分かった。俺のセーフハウスに戻ろう」
互いに軽く笑みを浮かべながら、二人は再び安堵の息を吐いた。




