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ジェイクも銃を構え、フレディと視線を交わし一呼吸置く。そして扉を蹴破ろうと、片足を上げた瞬間――
「待て」
突然フレディがそう発言した。ジェイクは片足を上げた状態で固まり、危うく転びそうになった。
「……なんだよ?」
ジェイクは眉をひそめながらフレディに尋ねる。フレディは真剣な表情をジェイクに向けると、ゆっくりと口を開いた。
「せっかくだからよ。俺、あれがやりたい」
「あれ?」
フレディはゆっくりと頷きながら言葉を続ける。
「ほら、映画とかでよくあるじゃねえか。こういう扉を銃でぶち抜いてよ。そしてゆっくりと扉が開いて、銃を構えた殺し屋が姿を現すって奴だ」
フレディの言葉に、ジェイクは目を上に向けながら考え込む。やがて頭を振りながら、呆れた様な視線をフレディに向ける。
「いやいや、いつの映画だよ。白黒の映像しか思い浮かばなかったぞ」
「いいから頼むぜ。俺がドアノブを撃ち抜くから、お前が扉を開く役だ。一度でいいからそういうクールな殺し屋ってのをやってみたかったんだ」
「そんなふざけたことやって撃たれても知らねえぞ」
ジェイクは大きくため息を吐きながらも、言われた通り、扉の脇にしゃがんで待機する。
「いつでもいいぞ」
そんなジェイクに、フレディは満足そうに微笑むと、ドアノブに銃を向けて引き金を引いた。乾いた銃声と共にドアノブが吹き飛ばされる。
フレディは腰に手を当てつつ、銃を低い位置に構えて扉の前に立つ。フレディがクールな殺し屋のポーズを取ったのを確認したジェイクはゆっくりと扉を押し始めた。
「あ、これ外開きだ」
「畜生が!!」
フレディは扉に蹴りを叩きこみ、蝶番ごとぶち破った。
銃を構えながら部屋に入っていき、二人は敵の姿を探す。すぐに見つかった。
「…………」
フレディとジェイクは呆れた様子で互いの顔を見合わせた。
部屋の中では肥満体系の男が一心不乱にテレビゲームをやっていたのだ。
耳を覆う程の大きなヘッドホンを付けた肥満体の男は、部屋が襲撃されていることに全く気付いていなかった。
ジェイクは男を指差し、フレディに視線で尋ねる。フレディは任せておけ、と小さく呟き、肥満体の男に一歩近付くと、その頭を思い切り引っ叩いた。
派手な音を立ててヘッドホンが飛び、男が驚いた様子で振り返る。そして自分の背後に立つ二人の男に気付き、その目を大きく見開いた。
フレディは腰の位置で銃を構え、銃口を男に向けている。その構えは、先程扉の前でやっていたクールな殺し屋のポーズだった。
自身に向けられた銃に怯えた表情を浮かべる肥満体の男。そんな男を真っ直ぐに睨みつけながら、フレディはゆっくりと口を開いた。
「よう、お前はファックマンか?」
「……え?」
その場にしばし沈黙が訪れる。
肥満体の男は、ぽかんとした表情でフレディを見つめる。やがて何か説明を求めるように視線をジェイクに向けるが、ジェイクは苦笑いしか返せなかった。
「え? じゃねえよ! 手前、俺がスベッたみたいな空気出しやがって!」
やがてその沈黙を破る様に、フレディは大声を張り上げながら、男の襟首をつかみあげた。
「俺は手前に質問したんだ! だったら手前が返すべき答えは、はいかイエスだろうが!? えぇ、どうなんだ!? 手前は、ファックマンか? そうなんだろ? そうだと言え!」
「ひいいい、すみません!! そうです、僕はファックマンです!!」
フレディのものすごい剣幕に、男は自分がファックマンであることを認めた。
「よし、それでいい」
フレディは満足そうに頷くと、ファックマンを突き倒し、床に転がした。
「いいか、ファックマン? いくつか質問がある。答えてくれるよな?」
フレディはファックマンの顔を覗き込むようにして見下ろしながらそう尋ねる。ファックマンは黙ったまま何度も頷いた。
「よし。そうだな。まずは自己紹介だ。俺の名はアルフレッド・フリード。生まれも育ちもニューヨークだ。友人からはフレディと呼ばれている。あいつは俺の相棒、名前はジェイコブ・フーバー。俺はジェイクと呼んでいる」
フレディに紹介されたジェイクは、懐から取り出した煙草に火を付けながら、片手で軽く挨拶する。ファックマンもそれに釣られ、片手で挨拶をする。
「よし。これでお互いのことは分かった。次に仕事の話をしよう」
フレディはファックマンに銃を向けたまま、言葉を続ける。
「俺はこう見えてギャングでな。若い時から、裏の世界で生きてきた。鉄砲玉から雑草抜きまで色んな仕事をやってきた。自分で言うのも何だが、一流の仕事人だと自負している。その甲斐あってか、いつしかこういう二つ名で呼ばれるようになった。『拷問屋』ってな。何でそう言われてるか分かるか?」
フレディは表情を変えず、ファックマンにそう尋ねる。ファックマンは怯えた表情のまま小さく首を横に振った。
「分からねえか? しょうがねえ、教えてやる。俺はな、舐めた野郎を後悔させることを生業にしてんだよ。この世に一秒でも存在していた事を、がっつり懺悔させてやるのさ」
フレディはそう言って、懐からスマートフォンを取り出す。そして軽く操作した後、画面をファックマンに向けた。
「ほら、見えるか。本当は会員しか見ることは出来ないんだが、お前は特別だ。これは俺の『拷問配信』だよ」
そう言うフレディのスマートフォンには恐ろしい映像が映し出されていた。




