1-8
「たっ、たっ……!」
「ちなみに前金で百万ね。成功報酬でさらに百万円の合計二百万円。依頼内容により増減するけどな。人探し程度なら半額でも大丈夫だ。前金と成功報酬五十万ずつの合計百万円」
「そ、それでも高いですよ。そんなお金払えません!」
「元々お前が払えるとも思っていない」
レイが冷ややかに言う。エミカはぐっと言葉に詰まる。
「名刺を渡して勝手に期待させたのもある。だから最低限の情報は渡してやる。あとは警察でも頼るんだな」
そこまで言って、レイはすっと目を細める。
「そもそもお前、薄々気付いていたんじゃないのか? だから警察ではなく、ハンターの元に来た。薬物常用者であることがばれてしまえば無事では済まないからな。だが、ドラッグを舐めるな。周りの説得や本人の気合だけで断ち切れるものじゃない。専門の治療を施しても後遺症は一生付きまとう」
レイの言葉に、エミカは思わず視線を逸らす。沈黙したまま手元のボトルを見つめている。レイは構わず言葉を続ける。
「そのマリアという女のことを思うなら、問答無用で病院に放り込め。そうすれば命は助かるだろう。もうこの先、まともな学生生活は送れないだろうがな」
エミカの肩が震える。顔を上げ、すがるような眼でコウを見つめてくるが、コウはかける言葉を思いつけなかった。
「そ、それじゃあ……!」
エミカはきっとレイを睨みつけると、口早にまくしたてる。
「マリアをそんな目に合わせた奴らを捕まえてよ! そのドラッグを売ってる奴らを!」
「金はあるのか?」
「……無い、ですけど、でも――」
「支払いは現金しか受け付けていない。依頼金をこの場で用意できないのなら話にならんな」
「犯罪者を捕まえるのがあなた達の仕事なんでしょ!?」
「違う。首に賞金がかかった奴らを金に換えるのが俺達の仕事だ。金にならないのなら犯罪者だろうと用はない」
「それじゃあ――」
エミカはなおもレイを睨みながら吐き捨てるように言った。
「私が襲われていた時も、お金にならなかったら見捨てていたんですか?」
「その通りだ」
「おっさん、ちょっとシャラップ」
コウは睨み合うレイとエミカの間に割って入る。両者の視線を一身に受けつつ、ジャケットの内ポケットから革の財布を取り出すと、テーブルに軽く叩きつけた。
「金は俺が立て替える。依頼も俺が遂行する。これで文句は無いよな、おっさん? 元々そういう話だったろ?」
コウの言葉を聞いて、エミカの表情が、ぱあっと明るくなる。その反面、レイは怒りと呆れを混ぜ合わせた様な形相になっている。
「またいつものおせっかいか」
「俺はおっさんと違って、感情がショートしてねえから、何でもかんでも損得勘定で動ける質じゃないんだよ」
コウは肩をすくめながらそう言った。レイは呆れたように首を振る。
「依頼はドラッグを売る奴への対処だったか? どう決着をつけるつもりだ?」
「そこは実際に調べてから考えるつもりだけど――まぁ、なんとかなるだろ」
コウのぼんやりとした目標に、レイはため息を吐いた。
「あ、私、そのドラッグを売ってる組織には心当たりあるんです!」
突然、エミカが軽く手を上げながら発言する。コウは驚いた様子で、エミカを見る。
「え、本当に?」
「はい。というのも、マリアはそこに通うようになってから、おかしくなったので、多分間違いないはずです!」
「どっかのクラブとか?」
コウの問いにエミカはぶんぶんと首を横に振る。そしてはっきりとした口調で場所の名前を告げた。
「真愛会というところです!」
その名を聞いた途端、コウとレイは驚愕の表情を浮かべ、互いに視線を交わす。そして二人そろって押し倒しそうな勢いでエミカに詰め寄った。
「……え、何……?」
突然二人に迫られ、エミカは困惑の表情を浮かべた。




