義母の提案
園遊会が終わりを告げる時刻となり、来た時同様義母のシモーヌと共に馬車に乗って、ギャロワ邸を後にする。
馬車では、義母と向かいあうよう腰掛ける。
ユージオと閨を共にしなくなって一年も経つと、シモーヌと二人きりになるのも何となく気不味く感じてしまい、馬車内はあまり居心地が良いものでは無い。
そんな中、まず口を開いたのはシモーヌだった。
「ねぇ、ミレーユ。実はいい助産師を紹介して貰ったのだけれど、良かったらその方に相談してみない?」
「お義母様……?」
「貴女が不妊と言いたい訳ではないのよ?ただ、一度相談してみるのもいいと思うの。同じ女だし、男性のお医者様よりも話しやすいと思って」
口調は優しいが、何処と無く責められているように感じてしまうのは、何故だろうか。
不妊について、気遣ってくれているのだろう。
だが、閨を共にしていないのにどうやって、子を授かるというのか。
前エルランジェ伯爵夫妻は、同じ敷地内の別邸で暮らしており、ミレーユとユージオがずっと閨を共にしていないなどと思っていない。
そうなると、中々子供が授からないのは、ミレーユの身体に問題があると考えているらしい。
「ね、そうしましょ。とってもいい案だと思うの」
シモーヌは両手を顔の前で合わせ、満面の笑みでミレーユの返事を待たずに、提案を推し進めた。
そうして有無を言わさぬまま、シモーヌは助産師によるミレーユの往診を手配する事にした。
後日、本館に訪ねて来たシモーヌに、予約の日時を教えられた。
義母の善意と気遣いでの行動だと、分かっているので、無下に出来るはずもない。
その日はユージオの外出が決まっている。ミレーユも義母の計らいで、一人馬車に乗せられ、助産師の元へと向かう事となった。
この日が来るまで義母に、正直に夫婦の現状を話した方がいいのか悩んでいたが、いい出せぬまま今日を迎えてしまった。