遊園会
ギャロワ邸で開かれる園遊会当日。
春らしくパステルパープルの色味のドレスを選び、編み上げた髪にはパールのピンや、生花を飾り付けて貰った。
リュシエンヌはギャロワ侯爵の一人娘。夫は現国王の従兄弟にあたる、オズインを入り婿として迎え、ゆくゆくは彼が、ギャロワ侯爵位を引き継ぐ事となっている。
園遊会の会場となる、ギャロワ侯爵邸の広大で幾何学式な庭園は実に見事であり、薔薇園も訪れた事のある人々の間でかなりの好評を博している。
本日開かれた園遊会には、ミレーユの義母でありユージオの母である、シモーヌと共に招かれていた。シモーヌは歳を感じさせないほど若々しくて美しく、顔立ちは息子のユージオに良く似ている。今日も自慢の髪を複雑に編み込み、この日のために新調したドレスもよく似合っている。
穏やかな春の日差しの中、テーブルや椅子が庭園に用意されている。
真っ白なクロスを敷いたテーブルの上には、薔薇をブレンドしたローズティーや、スコーンなどの焼き菓子、フルーツといったデザートや軽食が華やかに並べられた。
参加者が多い園遊会では、最初の時間は席についてお茶を飲みながら談笑した後、しばらくすると、それぞれが特に仲の良い者達と自由に庭園を歩いたりして残りの時間を堪能している。
ミレーユは現在、広い庭の春の花々を眺めながら、親友でありこの邸宅で生まれ育ったリュシエンヌと歩いていた。
最初は他愛もない話をして笑い合っていたが、意を決して夜会で見た事を伝えた。リュシエンヌの言う通り、ユージオとマデリーンが関係を持っているのを、偶然見てしまったと教えてくれたままだったと。
「本当だったわ……」
「そう……」
「ごめんなさい、言っていいものか悩んだのだけれど」
「ううん。ずっと知らないままだったらと思うと、ゾッとするわ」
知らないまま理由も分からず悩み続けるより、たとえ傷付いたとしてもワケが知れてきっと良かった。納得はしていないが、理解する事だけは出来る。
「人目につかないところで、何度も二人きりでいるなんて。あんなにミレーユ一筋で、誠実だと思ってた人さえ不貞をするなんて、分からないものね。わたくしは怒っているのよ」
リュシエンヌの言葉にミレーユは苦笑する。リュシエンヌが目撃したのは、精々寄り添っている程度の事だ。だがミレーユは情事に耽り、男女の仲になっているのを目撃してしまった。
これはまだ、リュシエンヌにすら話す事は憚られる。
「伯爵はどうするおつもりなのかしらね?うちみたいに入り婿とかなら、まだ追い出しやすいけれど。ミレーユもいっそ愛人を持ってみるとか……」
「あ、愛人だなんてっ!?そもそもまだ嫡子を産んでないから、絶対に駄目よっ」
親友の突拍子のない提案にミレーユは赤面し、大きな声を上げてしまいそうになる。
「それに、まだそんな噂は広がっていないと思うけれど、現に聞いたこともないし。
でもわたくしは偶然目撃し、ミレーユもその現場を見てしまったのなら、いずれは社交界に広まってしまってもおかしくない事よ」
(この事が世間に広まってしまったら……)
義両親や世間に知られると、これまでみたいに隠し通す必要がなくなる。そうなると、今迄表面上だけ夫婦らしく振舞ってきたが、邪魔な存在であるミレーユをユージオはどのように扱うのか。
現在ですら、閨を拒否されている状態にあるのに。
「もしエルランジェ家がこの件で、今後ミレーユに不利になるよう陥れようとしてきたり、嘘の証言をしたりしないように。わたくしもいくらでも力になるから、遠慮なく何でも言ってね。もちろん伯爵に仕返ししたい時もよ」
仕返しなんて考えてもいないけれど、リュシエンヌの言葉に少し肩が軽くなった。
話を聞いてくれる親友がいて、本当に良かったとミレーユは心から彼女に感謝した。