表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/40

ブノワ邸②

 マデリーンが取り出した、小瓶の中に入れられているのは、細かな雪のような白い粉。

 小瓶の蓋を開けようとした、その時。


「!!?」


 ふいに腕が掴まれ、マデリーンは驚き目を見張り、そちらを向いた。


(誰……!?廊下には誰もいなかったはずなのに……)


 掴まれている腕の方に視線をやると、その人物と目が合った。腕を掴んでいるのは、見たことも無い栗色の髪の若い男で、使用人の格好をしている。

 この邸で生まれ育ったマデリーンが、この男を知らないという事は、嫁いだ後にこの家で雇われたのだろう。


 あまりの事に思考が停止してしまったが、男の振る舞いに対し、遅れて怒りがこみ上げてくる。

 マデリーンは男を睨みつけ、鋭利な声音を響かせた。


「離しなさい」

「貴女こそ。それを渡して頂きます」

 

 何故か全く動じる事のない男。彼の視線は、小瓶に向けられていた。


(これを知っているの?)


 男の目的は分からないが、粉を渡すわけにはいかない。


「誰か!!誰か助けて!!」


 マデリーンが声を荒げると、何人かの使用人と共に、弟のラウルがすぐに駆けつけた。彼ラウルは、ブロワ家の嫡男でもある。


 ラウルが来るとは話が早い。


「……姉上」

「この男が、使用人の分際で気安くこの私に触れたのよっ、すぐに捕らえて!」


 高圧的に声をあげる。マデリーンは、自分が絶対的に有利だと、信じて疑わなかった。この瞬間までは。

 マデリーンに向けて、男が信じられない一言を告げる。


「この粉について調べさせて頂きますので、王宮へとご同行願います」

「王宮……?」


 その言葉で、おおよそを察したマデリーンは、粉の入った瓶を床に叩きつけようと、手を離した。だが、男は落下していくガラスの小瓶を、瞬時に受け止めてしまう。


 唖然と見つめるマデリーンに、弟のラウルは悲しげに呟く。


「姉上……最近の姉上がどうしても信じられなくて、動向を探らせて頂きました。彼はうちの使用人ではありません」


 嫁いで家を出た、マデリーンの知らない使用人が増えたところで、彼女は気付く事は無かった。

 そして潜入捜査で、この邸の使用人に扮した彼は、サイラスの部下でもある。


 弟の言葉で頭に血が上ったマデリーンは、ほぼ半狂乱となり、叫び散らす。


「裏切ったわね!?私のお陰で不自由なく暮らせてる癖に!!この恩知らず共が!!」


 先に家族を、実の父を手にかけようとしたマデリーン。自分の立場が悪くなった途端に、弟を裏切り者扱いし始めた。そんな姉を、ラウルは見ていられなかった。


「では、王宮へ……」


 ブノワ家の使用人に扮していた王宮の騎士が、マデリーンを連れて行こうとした瞬間。

 マデリーンは苦しみうずくまった。


「っ!!い、痛いっ、お腹が!!」


 妊婦であるマデリーンが、突然腹の痛みを訴え出した。しかし騎士は、眉一つ動かさない。


「手荒な真似は致しません。まずはこの粉の成分結果が出るまで、王宮への滞在を願います。それに、医師の手配も整っておりますので、ご安心を」


 悪足掻きをしてみたが、淡々と告げられ、流石に逃げられない事を理解した。プライドの高いマデリーンは、無様な姿を晒すのを止め、持てる威厳を掻き集める。


「ふんっ。何でもない普通の粉だったら、責任取りなさいよ」


 使用人に扮していた、王宮の騎士に連れられ、マデリーンは歩き始めた。

 悲しみに瞳を伏せる弟の真横を通るも、彼を視界に映す事は無かった。


 ラウルは姉のマデリーンが、この邸に顔を出す度に体調を崩していく父を見て、違和感を覚えていた。

 そんな嫡男であるラウルは、幼馴染の令嬢との結婚を控えている。


 ──許さない……私だけ……私だけ、老人に嫁がせておいて、私の犠牲の元に幸せになろうだなんて、絶対に許さない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ