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馬車での帰宅

 強引なサイラスに促され、ダンスフロアでしぶしぶ手を取ったが、彼は巧みだった。ダンスに対して気分の乗らない、戸惑うミレーユを上手くリードしていく。視線が合うと、にこりと微笑みかけられた。

 自国の王子であったサイラスの事を当然ミレーユは知ってはいたが、まさか踊る事になるとは。


 ターンをすると、裾のレースが軽やかになびき、縫い付けてある繊細なビーズが、シャンデリアの光を反射してきらめく。

 踊る二人を見る人々は、思わず感嘆のため息を零した。



 曲が終わったものの、サイラスはミレーユの手を離そうとしなかった。


「あの……手を……」

「やはりリズム感がいいね、もう一曲お願いしても?」

「え……?」


 夜会において、二曲踊るという事は特別な関係である事を意味する。そんな事くらい誰もが知っているし、ダンスに興じる人々を見ている周りの貴族達も、当然誰と誰が踊ったのか把握している。

 そして二曲目を、同じ組み合わせの男女が踊る事も。当然数を数えているし、それでなくても王弟であるサイラスは目立つ存在なのに。


 困惑したミレーユが眉根を寄せると、背後から聞き慣れた声が発せられた。


「そろそろ妻を返して頂けませんか?」


 夫であるユージオがすぐ後ろに立っていた。穏和な表情を浮かべているが、ミレーユを自身に引き寄せる力は強かった。


 ミレーユとしては、今はユージオの顔を見たくなかったが、サイラスから逃れるには一旦夫を盾にして逃げるしかない。


 流石に会場のど真ん中で、ユージオの前でミレーユを引き止めるといった真似は出来ず、そのままサイラスは引き下がった。


「では、またお願い致しますね」


(また……?)


 また別の機会に絡んでくるつもりなのか。

 偶然庭園にて出くわしただけで、これ以上何の用があるというのか。


 夫婦で少し挨拶回りをしてから、しばらくして伯爵邸へと帰宅することにした。


 サイラスはとても端正な顔立ちで、芸術の域に達しているほどの美形だったが、ユージオもかなり整った顔をしている。昔はその甘い面立ちが大好きだったが、今は見たいとは思わない。


 結婚前、まだ婚約者の立場にあった時から、ユージオに気のある女性は沢山目にしてきた。その度に「自分にはミレーユだけだ」と安心する言葉をくれていた。優しく誠実だったはずの夫。


 そんな思い出が、遥か遠い過去に感じてしまう。馬車に乗ると、隣り合って座ってはいるが、互いの身体の距離は近くとも心は離れたまま。

 隣に座る夫を視界に入れないように、俯くミレーユに、ユージオは口を開いた。



「軽薄だと有名な王弟殿下と踊って、嬉しそうにしてるなんて。見目麗しい殿下に声をかけられて、さぞ自尊心を満たされただろうね」

「嬉しそうになんかしていないわっ。明らかに困ってたじゃない」

「どうだか」


 ミレーユを責めるような物言いをした挙句、不機嫌に短く吐き捨てた。


(よく言うわ……自分なんて……なのにどうして、そんな言われ方をしないといけないの?)

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