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想い

 毒薬事件に関する調査結果を待っているはずが、思い掛けない言葉が紡がれ、ミレーユはエメラルドの瞳を瞬かせた。


「え?」

「マデリーンの動向とエルランジェ邸を見張らせていたんだけど、どうやらマデリーンを乗せた馬車がエルランジェ邸の屋敷へと入っていったそうなんだ」


 ユージオが三日続けてこの邸に来た時、何を今更と思っていた。それがぱたりとなくなった理由はマデリーンだった。

 やはり自分は邪魔者だったのかと、ユージオが来なくなった理由も合わせて腑に落ちてしまった。


 思えばユージオに何か変化がある度、いつも近くには彼女がいる。彼を変えるのは妻である自分ではなく、マデリーンなのだ。


「そうですか」

「それとミレーユが渡してくれた惚れ薬だが、今の所薬の効果は特に発見されていないらしい」

「……」



 自分からエルランジェ家から逃げ出し、実家に身を寄せる事を選んだ。

 するとすぐに自分の代わりに、夫は愛人を邸へと招き入れた。

 きっと自分とは違い、仲睦まじく暮らしているのだろう。

 気の強そうなマデリーンは、既に伯爵夫人のように振る舞っている可能性すらある。


「元々帰りたくはありませんでしたが、本当にあの邸に私の居場所は無くなってしまいました。私の時間はありますから、こちらの調査を優先して頂かなくても大丈夫ですわ。他にも容疑のある方々は沢山いらっしゃるのでしょう?」


 毒薬事件におけるユージオ関与の疑いが晴れないと、エルランジェ邸には帰れないと思っていた。だがユージオの方が早々に、自分を切り捨てたのだとミレーユは理解する。


(お義母様やお義父様はこの事を知っていらっしゃるのかしら?)


 子供を産んだ貴族夫人が別居するのは聞いた事があるが、跡取りを産んでいないうちから本格的な別居が始まるなんて。


 跡取りを産まず、加えて別居状態にある嫁はエルランジェ家からすると迷惑でしかなく、いらない存在のはずだ。

 いよいよ離婚が現実味を帯びて来た。



「ミレーユ」


「私、自分でも分からないんです。親同士が決めた婚約者と結婚して、彼へは穏やかな愛情がありました。夫に避けられたり、愛人の事を知って傷ついたのは夫を愛していたからだと思います……家族としてかもしれませんが」


「……」


「でもその後は、その愛情すらも綺麗に消えたと思いました。もう夫婦でいるのも嫌なくらいに。

 だから彼の事は許せると思えたのに、裏切られたのだと思うと、辛くなる時がたまにあります」


 終始冷静に話すミレーユの頬をサイラスのしなやかな手が触れる。


「無理矢理自分の気持ちを、どちらか一方に当てはめなくてもいいんだ。今はまだ、許せる心も許せない心も両方持っていていいと思う」

「殿下はいつも優しいですね」


 ミレーユが微笑むと、真摯な眼差しでサイラスは受け止める。


「ミレーユ。離縁する事になったら、俺と共に生きる道も考えてはくれないだろうか?」

「えっ?」

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