ギャロワ邸②
「義母にいい助産師がいるので診察を受けて来るようにと言われ、ゾフィーの元へ診察を受けに行った際に渡されたのがこの薬です。ゾフィーはこれを惚れ薬だと言っていました」
「惚れ薬?」
小瓶を手に取ったオズインが首を捻る。
「ゾフィーは、自分で占い師でもあると言っていました。もしかしたら、何かの力で私達に子供が出来ないのは、夫婦関係が破綻しているのが原因だと知っていたのかも知れません」
「……」
ミレーユの言葉で二人は沈黙し、なんとも言えない空気が室内に流れた。
「取り敢えず、これは今から私が王宮に運んでおく。その他詳しい事情などはサイラスの方が話しやすいだろう。後、家に帰るのが不安なようなら体調不良を理由に、今夜はここに泊まれるよう手配済みだから安心するといい」
「ありがとうございます」
オズインが立ち上がったので、ミレーユも立ち上がってお礼を述べた。
オズインが出て行った後、部屋はサイラスと二人きりになり、彼と目が合う。幼馴染同士という事でこの部屋にはサイラスが残されたのだろう。
「座って。来た時より顔色はだいぶ良くなったけど、家で何かあった?」
「いえ……ちょっと家では食欲がなくて」
サイラスに座るよう促され、彼もミレーユの隣に腰かけた。
(距離が近いわ……)
「家では……ね、伯爵に何かされたとか?」
「疑心暗鬼になっているのかもしれないけれど、ユージオとは一年以上も寝所を別にしていて、彼はずっと夫婦の寝室に入ろうとしなかったんです。なのに何故か昨日は、突然自分の手でお酒を持ってきて……。それでもしかして……このお酒には毒が入っている可能性があると思ったら、怖くなって。朝になっても彼と同じ食卓に着くのも不安で……」
「それであまり食事が摂れていなかったのか」
ミレーユはこくりと頷く。
彼女を見つめるサイラスの表情には僅かに、剣呑な色が浮かんでいた。
ミレーユがギャロワ邸に着いたのは昼過ぎであり、朝と昼をほとんど食べていなかった。
「でも、リュシーや……殿下方の顔を見た途端、あんなにも張り詰めていて、不安でいっぱいだった心が和らいだのです」
胸を押さえ、困ったようにミレーユは微笑む。
夫であるユージオよりも、リュシエンヌやオズイン、サイラスの方が信用に値すると断言してしまった。
「こんな事を聞いてすまないが、君達夫婦はどうして寝所を別にしているの?」
「それが……分からないんです。私には見当もつかなくて、ただある日突然ユージオは、滅多に寝室に入らないようになってしまって」
二人きりの空間で、これまでの事を話し始めた。




