ギャロワ邸
無事ギャロワ邸に着いて出迎えてくれたのはリュシエンヌとその夫オズイン。そしてサイラス。
三人は見るからに弱ったミレーユを見て、固まった。
「ミレーユ!?顔色が悪いわっ」
最初にリュシエンヌが声を上げると、いつのまにかミレーユの側まで来たサイラスが、華奢な肩を支えた。
「大丈夫か?」
「えっ……!?は、はい……殿下?」
思いがけないサイラスの行動に、ミレーユは戸惑うが、リュシエンヌの「体調が悪いの?」という問いかけに慌てて返答する。
「いいえ、違うの。お腹が……空いただけなの……」
「え?」
親友の絞り出した言葉に、虚を衝かれたリュシエンヌだが、すぐに食事の手配を使用人へと指示する。
今朝は寝室で焼き菓子を用意してもらったが、結局少量しか食べられなかった。
毒が混入しているかもしれないという不安より、夫から死を望まれているかもしれない、そんな疑念の方が辛い。そんな想いを抱えていたら、身体が食事を拒否していた。
だがリュシエンヌ達の顔を見て安心した途端、空腹を訴え始めたのもまた事実。
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元々ミレーユのためにお茶の用意をしていたので、サンドイッチなどの食事の手配も早かった。
ギャロワ邸の別棟の一室。空腹を満たしたミレーユの前には、テーブルを挟んでサイラスとリュシエンヌの夫であり、サイラスの従兄弟でもあるオズインが腰掛けている。
オズインは金茶の髪に青い瞳の、硬派な見た目そのままな真面目な性格をしている。
そしてオズインが口を開く。
「まず、どこから話そうか。死因が分かり辛い事から、近年この国では毒薬を用いた殺人が蔓延している事は、サイラスから聞いていると思う」
「はい」
「毒薬の取り引きルートや犯罪を行った者について、陛下は本格的に調査する事を決定し、今は信頼出来る僅かな身内のみで動いている。
調査にあたっては、どんな大物であっても見逃してはならないとのお達しだ」
(信頼……亡くなられたサイラス殿下の御母君である王妃様が、サイラス殿下の王位を主張していた。だから陛下とは不仲だと、貴族間では噂になっていたけれど……)
信頼出来る僅かな身内の内二人が、サイラスとオズインという事か。
前王妃の主張。亡くなった最初の妃が産んだ王子より、自分の産んだ我が子を王位に就けたい、と思うのも不思議ではない。サイラスの異母兄と母ーー現国王と前王妃が対立していたのは確かだが、異母兄弟自体はそうではないらしい。
今は先王の一番目の王子が王となり、サイラスの母は亡くなっている。
むしろ不仲であるという噂を、逆手に取っている可能性もあるのかと、ミレーユが思考を巡らせているとオズインが話を続ける。
「そして助産師ゾフィーについて話しておこう。彼女は確かに表向きは助産師だが、禁止とされている堕胎の依頼を多く受けている事が分かってきた」
(堕胎……。あの夜……胎児を生贄にするっていっていたけれど、まさかその時の子!?)
仮面舞踏会の光景と、オズインの言葉が繋がり、あまりの悍ましさに、目眩と吐き気が込み上げてくる。
「う……」
(食後に聞くには辛い話だわ……)
口元を押さえるミレーユに、オズインは途端申し訳無さそうに眉尻を下げた。
「すまない。彼女の危険性を知ってもらって、今後の診察や接触は避けて貰おうと思い話したのだが、タイミングが悪かったな……」
「……いえ、こちらこそ気を遣わせてしまって、申し訳ありません」
「私が彼女から渡されたのはコレです」
ミレーユは邸から持ってきた薬を取り出す。
液体の入った瓶をテーブルに置くと、コトリと音が鳴る。




