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変化

 ユージオが自室に戻ってからは湯浴みをして、明日に備えてゆっくりする事にした。明日になればギャロワ邸にゾフィーから貰った薬を渡しに行かなくてはならない。


 朝になり侍女が起こしにくると、食欲があまりない事を伝え、先日取り寄せた洋菓子店の焼き菓子とお茶だけを、寝室に持って来て貰う事にした。疑心暗鬼になっている今は、夫との食事を極力避けたかった。



「奥様、本日のギャロワ邸へのご予定はキャンセルなさいますか?」

「いえ、今日は大事な用があるから行くわね、少し食欲がないだけだから」

「しかし……」

「大丈夫よ」


 言い切る女主人に、侍女は従うしかなかった。


 着替え終わってから部屋を出ると、廊下でユージオに遭遇し、彼は血相を変えた。


「ミレーユ!?」

「ユージオ?」

「今日の予定は取り止めてくれ。朝食だって来なかっただろ?」


 真剣な彼の様子に、ミレーユは気圧されそうになるも、やんわりと微笑む。


「昨日ユージオが帰ってくる前に一人でデザートを食べ過ぎたみたいで、少し食欲が無かっただけなの。でも焼き菓子を食べたから大丈夫よ」


「昨日の夜だって、凄く体調が悪そうだったじゃないか!?」


「夜は少し目眩がしただけだから……」


「何故なんだ?この前は仮面舞踏会なんて行ってたみたいだし、最近何かあったとしか……」


 夫から出た『仮面舞踏会』という言葉に息を呑む。参加した舞踏会が仮面舞踏会だという事は、執事が調べたのか、ユージオが元々知っていたのか。


(彼の真意が分からないけど、もしも共犯だったら、早く私を始末したいはず……)


 夫婦であるはずなのに、完全に疑念を拭い去る事が出来ない悲しさに苛まれてしまう。


 本当は疑いたくもないし、夫を信じたい。

 その為にも真実を明らかにしなくてはならない。だから、行かなくてはいけない。

 王都に蔓延している毒の調査も、毒を使って罪を犯した人々の事も全て明るみにしなくては。そして夫が私に毒を使う気でいるのか否かも……。


(サイラス殿下にお任せしたらきっと)


「大丈夫、行ってくるわね」


 ミレーユは真っ直ぐに夫を見て微笑み、彼の手を自身の手のひらで包み込む。

 意思を貫こうとする、輝くエメラルドの瞳で見せた笑顔は美しかった。言葉を失うユージオ。自分の知らないうちに、妻の何かが変わったような気がした。

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