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思いがけない人と②

 ミレーユとサイラスは幼少の頃、宮廷で開かれる貴族子女の音楽サロンで、共に楽器を学んでいた。二人は幼馴染といっても過言ではない存在であり、昔はそれなりに仲も良かった。

 年齢が進むにつれて、あまり会話をする事もなくなったが、思春期の男女なんてそんなものだと納得していた。そのうちにミレーユは婚約者が決まり、婚約者がいる令嬢が他の異性と必要以上に親睦を深める理由もない。

 ましてや彼は国の王子であり、気軽に話しかけるのは憚られた。


 長い期間大した交流もなかったサイラスが、仮面を着けた自分にすぐ気付くとは、ミレーユとしても予想外の出来事だった。


「実は前マンテルラン男爵の死を不審に思った、彼の子息から相談されていたんだ。それで彼女の事は前から調べていた」


 そこでミレーユは、はっとする。以前夜会の中庭で夫の不貞現場を目撃してしまった時、サイラスがあの場にいたのは、マデリーンの動向を窺っていたのだと。


「マデリーンは、今夜も毒薬を手に入れに来たと言っていました……」


「やはり彼女は黒だろうな。毒薬の受け渡しは、この邸で行われているのだろう。ありがとう、君のお陰だミレーユ」


 毒薬の他にも怪しげな儀式で若返りの薬を作ると言っていた。そして、ミレーユが受診に訪れた際には惚れ薬……。


(他にも別の薬を扱っている可能性もあるのね……私には惚れ薬だったし……そうだわっ)



「あの、殿下。そういえば、受診の際にゾフィーから怪しげな薬を手渡されていたのです」

「怪しい薬?」

「彼女は惚れ薬だと言っていました」


 その薬の名称を聞いた途端、サイラスは眉根を寄せる。


「惚れ薬?使ってみたの?」

「まさか!」


 激しく首を横に振るミレーユを見て、サイラスは顎に手を当てて思案した。


「その薬、気になるな」

「まだ家にはあるのですが、お渡し致します。それに、持っていたくないので……」

「ありがとう。でも一ついいかな、協力は非常に助かったし、感謝している。だけどこれからはあまり、危険な所に行かないでくれると嬉しい……」


 きっとサイラスはマデリーンが自分の夫と近しい事から、ミレーユの事も最初は完全には信用していなかっただろう。でも彼は自分を信じてくれた。


「ここがどういう場所か知らなかったとはいえ、このような舞踏会に参加してしまうなんて……自分でも、どうかしてました。これからは気を付けます」


 真摯な想いを伝えると、サイラスは一瞬だけ困ったように微笑んだが、すぐに優しい笑みに戻る。


「では、薬を受け取る予定を決めようか」

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